サーモフィッシャーサイエンティフィック(TMO)というラボ向け、分析機器、診断、試薬メーカーの塊魂力

サーモフィッシャー・サイエンティフィック

サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific Inc)は世界最大級の科学機器・試薬メーカー。

一言でいえば塊魂のように同業他社を買収によって成長してきており、このまま買収し続けると、発見から生産、品質管理に至るまでバイオ・医薬品開発に必要なものはサーモフィッシャーで全部揃う状態までいくかもしれないし、一部(オミックス等)では現状それに近い。

塊魂

ラボメン「サーモさんの試薬がないと研究が成り立たないっス」

この記事は古いので、以下で最新版を配信している。

サーモフィッシャーサイエンティフィックの特徴はゴールドラッシュで掘りに行くのではなく道具を提供するビジネス

サーモフィッシャーのビジネスはピック&ショベル戦略(Pick and Shovel Play)、つまりゴールドラッシュに群がる鉱夫にショベルを販売するようなビジネスの製薬・ヘルスケア業界版だ。

Thermo Fisher Scientific Revenue Profile

計測機器やソフトウェアなどの製品が売上高の26%を占め、サービス収入は14%で、容器やチューブなどの医療用消耗品が60%を占め、定期的に買ってもらえる比較的予測可能性の高いキャッシュの流れを構築している。

Thermo Fisher Scientific EPS Growth

利益率も高くフリーキャッシュフローが潤沢で、繰り返し購買が発生する収益の予測しやすさから自社株買いや買収戦略によってEPSの底上げがしやすく、業界でも有利なポジションに立っているだろう。

サーモフィッシャーサイエンティフィック Capital Deployment Strategy

キャッシュフローの使いみちは買収が65-75%、自社株買い等が25-40%の方針。

サーモフィッシャーサイエンティフィックの買収

Significant Industry Acquisitions

他社でインパクトある買収はドイツのメルクが研究試薬・バイオ医薬品の製造に利用する製品を販売する優良企業である米シグマアルドリッチを170億ドルで買収し、30万種もの研究試薬の販売能力を手に入れていることか。

ここで書かれていない重要な業界動向としてはサーモフィッシャーが買収したライフテクノロジーズの次世代シーケンサー(遺伝子解析機器)であるイオントレント(Ion Torrent)の競合であり遺伝子解析機器シェアNo.1(シェア75%)の米イルミナをスイスの医薬品大手ロシュが2012年に買収しようとして拒否されたり、詳しく書くと長くなるので次世代シーケンサーの覇権争いは非常に重要なので別途記事にする予定。

端的にいえばサーモフィッシャーも参戦している次世代シーケンサー戦国時代は注目されているものの、すごいスピードで技術革新が起き、覇権交代のリスクが高い。

それでも遺伝子診断・解析市場は大きく、次世代シーケンサーの用途は広がっている。

最近のサーモフィッシャーサイエンティフィックの買収

サーモフィッシャーサイエンティフィック Identifying the Right Opportunities to Create Long-term Value

ここ数年の重要な買収は以下の通りだ。

2011年
同業の米ダイオネクス(DIONEX)を21億ドルで買収
ダイオネクスは化学混合物を分離するクロマトグラフィーと呼ばれる分析機器で世界3位で、薬品、水質、食品汚染の検査で活躍している。
水質分析用イオンクロマトグラフィーシステムを初めて開発し、水質調査の需要がある中国での事業の拡大に貢献。

2011年
アレルギーテスト・自己免疫診断技術のスウェーデンのファディア(Phadia)を24億7000万ユーロで買収

2012年
臓器移植や親子判定用の診断プロダクト等の医療検査製品メーカーのワンラムダ(ONE LAMBDA)を9億2500万ドルで買収

2013年
同業の米ライフテクノロジーズ(Life Technologies Corporation)を136億ドルで買収
ライフテクノロジーズは上述の通り、DNA解析機器を手掛けている

経緯としては、国際ヒトゲノム計画でも使われた世界初の全自動キャピラリーシーケンサー(遺伝子解析機器)を作り出したバイオテクノロジー関連の装置システムメーカーであるアプライド・バイオ・システムズ(Applied Biosystemss)を研究用試薬メーカーであるインビトロジェン(Invitrogen Corporation)が2008年に買収して設立されたライフテクノロジーズを2013年にサーモフィッシャーサイエンティフィックが買収したわけだ。

ちなみに前述のロシュとシグマアルドリッチもライフテクノロジーズ買収を狙っていた。ロシュはイルミナ買収失敗もしかり、遺伝子解析ツール事業の強化を心底渇望しているようだ。

2016年
マイクロアレイの有力プレイヤーである細胞・遺伝子情報分析システム企業アフィメトリクス(affymetrix)を13億ドルで買収
同社はDNAマイクロアレイ=DNAチップ(遺伝子研究用チップ)の開発を手掛ける。
アフィメトリクス買収合戦では中国勢がもっと高額な買収提案をしていたが米国当局の認可を危ぶんだのか同社はサーモフィッシャーサイエンティフィックを選んだようだ。
この買収でサーモフィッシャーサイエンティフィックはバイオサイエンス分野でのリーダーシップを強化。

2016年
電子顕微鏡のリーダーであり精密機器メーカーのFEIを42億ドルで買収
最先端電子顕微鏡のTitan Kriosは期待されている。

2016年
上述のイルミナ(Illumina)に対し買収を提案したのはロシュだけではなく、サーモフィッシャーサイエンティフィックも300億ドルの買収提案をしたと報道されているが、噂で終わったようだ。

個人的には次世代シーケンサー事業を補完するなら巨額のイルミナよりオックスフォード・ナノポア・テクノロジーズ(Oxford Nanopore Technologies)に関心があるが…これは次のシーケンサー記事で触れよう。

2017年
バイオ医薬品製造支援のオランダのパセオン(Patheon)を72億ドルで買収
パセオンはCDMO(Contract Development Manufacturing Organization)、つまり製薬企業から医薬品の製造を受託する医薬品製造支援ビジネスで主要プロバイダーだ。
とはいえこのCDMO業界は非常にシェアが断片化しており、パセオンですら5%近いシェアしかない。

サーモフィッシャーサイエンティフィックの世界的な販売網をいかしてシナジーが見込めるが、この買収でもまだ医薬品開発に必要なものは全部揃っていないのでフルカバーのために次の買収での補完が期待される。

パセオン

サーモフィッシャーサイエンティフィックの業績推移グラフ

効果的な買収が続いており、レバレッジも高いが規律がない状態にならないようコントロールしている。

余談だが、身近なところにもサーモフィッシャーはいるという話をしよう。

Nalgene(ナルゲン)というアウトドア派に人気のプラスチックボトルも元々はサーモフィッシャーの研究用装備品で、本来の用途と異なる使われ方で人気商品となっている。

Nalgeneは中身がもれない独自のキャップシステムでパッキン不要で信頼性が高く、アウトドア用だけでなくキッチン用品としても使われ始めている。

売上の割合からいって取り上げる必要はないが、見かけたらサーモフィッシャーの製品の品質を店頭で確かめてみてほしい。

サーモフィッシャーサイエンティフィックの競合他社

ベクトン・ディッキンソン(BDX)
Becton Dickinson and Company

バクスター(BAX)
Baxter International Inc

アボット・ラボラトリーズ(ABT)
Abbott Laboratories

パーキンエルマー(PKI)
Perkin Elmer
次のサーモフィッシャーサイエンティフィックの買収ターゲットではという記事が多い

アジレント・テクノロジー(A)
Agilent Technologies

イルミナ(ILMN)
Illumina, inc.

ロシュ(スイス)
Roche

メルク(ドイツ)
Merck KGaA

断片化された業界も含まれているのでもっと多いがこの辺で。

サーモフィッシャーサイエンティフィック株価

非常に株価が高い。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)の予算削減を嫌気して株価が20%下落するなど外部要因での暴落も経験している。

医療分野に関心があるというAmazonは1492と呼ばれるプロジェクトで医療に対してテクノロジーでできることを探しているようで、サーモフィッシャーのビジネスに影響を与えてくることをしかけてくるかもしれない。

すでにサーモフィッシャーサイエンティフィックCEOはアマゾンの脅威を感じており、EC及びサプライチェーンの強化をはかっている。

また、クラウドベースのサービスも強化している。

Thermo Fisher Cloud

サーモフィッシャーサイエンティフィックの遺伝子解析プラットフォームは全てサーモフィッシャークラウドにつなげることができるようになるようだ。

競合の手の平サイズの使い捨ての遺伝子解析機器であるMinIONもクラウド前提だったのでこの方向性がスタンダードになっていくのかもしれない。

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