農作物の収穫量を増加させることで世界の胃袋を満たしてきた肥料であるが、化学肥料のカリウムとリン酸とチッソという三大成分のうちカリウムとリン鉱石は稀少資源であり埋蔵されている場所も限られている。
カリウム・リン鉱石は穀物の収穫量を上げるための稀少鉱物資源
化学肥料の三大成分のうち窒素は無限に存在するがカリウムとリン酸塩(リン鉱石)は希少な鉱物資源。これら植物の三大栄養素(チッソ・カリ・リン)によって現代農業の収穫量増加は成り立ってきた。
カリウム鉱石が産出される国はわずか12ヶ国、カナダ46%、ロシア35%、ベラルーシ8%と上位3ヶ国だけで8割、それ以外はわずかながらブラジル3%、チリと中国が2%、ドイツと米国が1%、イスラエルとヨルダンが0.5%とその他と、カリ資源が上位2ヶ国に偏在している状況です。カリウムの生産世界最大手はカナダのポタッシュコープ(POT)である。ポタッシュコープはカリウムの生産に強みがあるが、リンやチッソも生産している。
リン鉱石の生産国は中国、モロッコ、米国で世界の70%の埋蔵量を占める。米国はリンの禁輸措置を行っており、中国も四川大地震を境に100%の関税をかけた。リン酸事業に強みがあるのは米国のモザイク(MOS)である。カリウムやチッソも生産している。
チッソは空気中に存在するため、カリやリンのような地理的な制約は無いが窒素肥料生産に天然ガス由来の水素を使用するため、天然ガス資源と穀物地帯と双方にアクセスしやすい立地を持つCFインダストリーズ(CF)が関連株として浮上する。同社はリン事業をモザイクに売却しチッソ肥料生産に特化している。
ポタッシュやモザイクほどの規模ではないが、カリ・リン・チッソ肥料生産以外に種子や栄養素・作物保護事業などのアグリビジネスを多角化しているのはアグリウム(AGU)だ。
カリウム・リン鉱石の需要と供給
主要栄養素であるカリやリンに関しては、世界の人口増加トレンドと牛肉などの需要増大によるそのための飼料需要増加など需要面では引き合いが強い。
それ以外にも原油価格が高騰するとバイオエタノール需要が高まり、そのためのトウモロコシ(塩化カリを多く消費)などの穀物の需要が増加しそれが化学肥料に対する需要増大にもつながります。逆に原油価格が暴落することである程度連動して肥料会社の株価も連動して安くなりがちです。
一方供給面では、既存の肥料会社以外にも世界3大鉱山会社である豪英系資源大BHPビリトンのカナダ西部の炭酸カリウム鉱山開発や、ヴァーレ、リオ・ティントなども肥料生産ビジネスに対して関心を高めていますので、価格が高止まりするということも無いと見られます。逆に言えば価格競争で安値圏に資源価格があるうちはすでに設備投資が済んでいるポタッシュコープやモザイクなどの生産大手は新規参入のリスクは軽減され、逆に弱小生産企業を取り込む機会が生まれるかもしれません。
あまりにも化学肥料が高騰すれば、下水処理場で処理される余剰汚泥や焼却灰からリンを回収・利用するリサイクル技術に対する需要が高まるかもしれませんし、スマート農業でセンサーやドローンで土壌や作物の状況に応じて必要最低量の肥料を最適化するなどの効率化による多少の需要のリバランスはあるかもしれません。
塩化カリウム価格推移
最新のグラフは http://www.indexmundi.com/commodities/?commodity=potassium-chloride を参照してください
リン鉱石価格推移
最新のグラフは http://www.indexmundi.com/commodities/?commodity=rock-phosphate を参照してください
追記: 価格は大幅に下落していたがやや反転している。
カリウムの価格カルテルの崩壊
カリウムの産出が偏在していることもあり主要生産者も寡占状態で上位4社で生産量の大半を占めている。
via Potashcorp IR document
東側(旧ソ連)
ウラルカリJSC(Uralkali)- ロシア
ベラルーシカリ(Belaruskali) – ベラルーシ国営企業
西側(北米)
ポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン – カナダ
モザイク(Mosaic) – アメリカ
アグリウム(Agrium) – カナダ
これら5社は東側と西側でそれぞれ中国など強力なバイイングパワーを持った買い手に対して単独ではなく協調して強い価格交渉ができるよう共同で合弁販売商社を設立しています。
共に旧ソ連のウラルカリとベラルーシカリはベラルーシアン・ポタシュ(Belarusian Potash Company 以下BPC)という合弁会社、
ポタシュとモザイクはカンポテックス(Canpotex)という合弁会社を作っている。
これらたった2社しか世界に販売網をもたないほど寡占状態だったBPCとカンポテックスは世界の供給の3分の2を扱っていたのですが、反トラスト法によって価格設定のカルテルに関する集団訴訟を提訴されており、罰金を支払って合意していました。
このような訴訟も和解し安泰かと思われた共同販売網でしたが、状況は2013年7月に急変します。
ロシアのウラルカリが「ベラルーシ政府がベラルーシカリ社に対してBPCの許可なしに輸出割り当てを付与している」とBPCから離脱し、突然カリの販売価格を大幅に引き下げ単独で低価格路線によるマーケットシェアを取る舵をきったのです。それどころかBPCの契約をウラルカリが奪ってしまったため、ベラルーシカリは販路において損害を受けた。
このようにウラルカリがBPCから脱退したことで、BPCとカンポテックスの二大勢力による事実上の価格カルテルは崩壊しました。
ウラルカリが脱退した理由は実際のところは裏もあるだろう。
元々ロシアはベラルーシの吸収合併を望んでおり、天然ガス供給のコントロール権をロシアはカードとして利用してきた。
カリ・カルテルに関しても共通の利益よりもベラルーシに対する交渉・圧力で有利な状況にするメリットを最大化したと見られる(ベラルーシの輸出収入の5-10%をカリが占めていたためカルテル崩壊の価格下落はベラルーシ財政に痛手)。
さらにカリ生産勢力にとっての問題は、この混乱に乗じてカリウムの最大の輸入元である中国政府系ファンドの中国投資有限責任公司(CIC)がウラルカリの株式12.5%を取得してしまった。
中国は安価にカリを取得したいのは当然で、中国の株主としての参戦でかつてのBPCのような販売協調がスムーズに復活する見込みは薄く、カリの価格圧力につながると見られる。
(実際のところ国家収入面でも絶対に販路を失うことが許されないベラルーシカリの方が中国に対して安価な価格でシェアを取りに行っているようだが)
財政的な見地からは低価格路線は反転してもおかしくはないですが外交圧力が絡むと物事はより泥沼化してしまいがちです。
カリ・リン・チッソなどの化学肥料と有機肥料
有機肥料と化学肥料と比較されると、語感的に化学肥料は「身体に悪いもの」という印象を持たれてしまうかもしれない。
実際のところ、カリもリンも元々は鉱石として天然で存在していたものであり、有機肥料と違い大量生産ができていたため安価に収穫量を上げることができるだけで身体に悪いというエビデンスはない。
有機肥料は堆肥、米ぬか、油かす、骨粉、魚粕、腐葉土などを含んだもので、これを使った有機農法は美味しいとされている。
基本的な違いは、有機質肥料が微生物の分解の過程でゆっくり無機化され植物に吸収されるのに対して、化学肥料は直ぐにイオン化するため即効性と直接的に効く、という違いであり、化学肥料が危険というわけではない。
窒素過剰が虫害を発生させ、農薬の使用を余儀なくされているという側面も指摘されているが、化学肥料によって現代の収穫量は飛躍的に上昇したため、国民が飢えることがないよう農家保護のためにも各国は戦略物資として指定している。
本テーマに関連する肥料生産大手
ポタッシュコープ(POT)
―Potash Corporation of Saskatchewan Inc.
―ポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン
―カナダの肥料企業(世界最大肥料企業)
モザイク(MOS)
―Mosaic Co
―アメリカの肥料企業
アグリウム(AGU)
―Agrium Inc.
―カナダの肥料企業
CFインダストリーズ・ホールディングス(CF)
―CF Industries Holdings, Inc.
―アメリカの窒素肥料会社
みんなの投資分析とコメント
昨日、ポタシュ・コーポレーション・オブ・サスカチワン(POT)とアグリウム(AGU)が対等合併の方向で予備的な段階ではあるが交渉中との報道がありましたね。
価格下落による苦しい経営ですから理解できますが、しかし寡占の観点から独占禁止法に抵触する可能性はないのですかね。