米国企業だけではない世界的トレンドであるものの米国企業が先行している大きな動きとして「プラットフォーム化」による”新ドミナント戦略”が挙げられる。
プラットフォームとエコシステムの形成
プラットフォームとエコシステム(ビジネス生態系)は密接した関係。
自社のプラットフォームで他社の事業を巻き込んで自社だけでは到達できないサービスの質と量を拡大するエコシステムはビジネス構造上、スケール面、参入障壁/Moat(濠)においても重要な要素。
たとえば、AmazonはAmazon自体が商品を販売するプラットフォームでありながら、同じ商品ページに他社(サードパーティ/第三者企業)が商品を販売することも可能。
これによって圧倒的な商品カバーを可能にし、Amazonならなんでもあるから他社のサイトで探さなくても良い、という状態にできるようになりつつある。
また、アドビシステムズなどのようにAPIを通じてデータをパートナーやサードパーティーデベロッパーに提供することでプラットフォーム単体で実現できる機能・サービスをさらに拡張できるようにすることもエコシステム形成の大きなトレンド。
プラットフォーム×エコシステムといえば、筆頭であり時価総額の大きなApple、Amazon、Google、Microsoft、FacebookなどのFAAMG(BIG5)はもちろん、中国ではテック企業2強のアリババやテンセントも強力なプラットフォーム企業。
10年くらい前は世界の時価総額トップはオイルメジャーが占めていたが、
今やITセクターのBIG5が世界の時価総額TOP5Source:https://t.co/bebpHZoZGe pic.twitter.com/FKTQoaBKY1
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年8月19日
S&P500インデックスETFに投資するということは多くの比率をプラットフォーム企業に投資することでもあるので、個別株投資をしていない人も注目する価値がある。
また、新興国株インデックスもテンセントやアリババなど中国BATで10%以上の比率でプラットフォーム企業に投資していることになる。
中国・韓国・台湾企業で50%を占める新興国株インデックス(MSCI EM)の利益成長のほとんどはテック企業からきている。
MSCI EMのWeight
テンセント4.9%
サムスン4.4%
アリババ3.9%
TSMC3.5%
バイドゥ1.4%
鴻海1% pic.twitter.com/DjwE9uHgWs— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年10月21日
ちなみに、サードパーティを巻き込んだエコシステム形成なんてものは古くは任天堂だってそうだし、ネット時代からのものだけではなく、VISAやMastercardも自社でカードは発行していないプラットフォーム企業で、昔からあったテーマ。
ただ、やはりネットの普及、2011年前後のクラウド時代の始まり、APIによる相互接続が増加し、ニッチな特定領域の課題の解決に特化した無数の新興企業も含めプラットフォームベースでエコシステムを形成するトレンドが急加速し、大きな流れになってきている。
全ての例をあげているとキリがないのでほんの一部紹介すると(ちなみにこの相場だしだいたい株価は高いので注意、あくまでビジネスとして紹介)、
スクエア – 店舗での決済シーンにおける端末で顧客との接点を持ちながらPOSデータなどを中心にサードパーティを巻き込んでより様々な業態に最適化できるようにするプラットフォーム。
インテュイット – クラウド会計プラットフォームをベースに給与計算など他社のサービスと連携できる。
ワークデイ – 人材管理クラウドサービスのプラットフォームをベースにCRM(顧客関係管理)でセールスフォースなどと連携。
その他、セールスフォースや、Paypal、サービスナウ、レッドハット、ウェイボー、スプランク、パロアルトネットワークス、中国EC大手JD、ROKU、世界最大のOTAのブッキングホールディングス、音楽ストリーミングのSpotify、EC構築サービスのShopify、グラブハブなど他社を多く巻き込むことで、自社サービスの価値を高め、スケールできるのがプラットフォームの強さ。
関所ビジネス的プラットフォームの例では、iPhoneアプリだって、アプリ開発者が少なかったらプラットフォームとしての価値は乏しいが、iPhoneユーザーが爆発的に増加し「儲かる」のでアプリ開発競争が進んだ。アプリ開発者も儲かり、Appleもアプリ課金のうちの一部の手数料で関所の通行料のようにチャリンチャリンと儲かる、これが三方良しの理想的エコシステム形成。
プラットフォームとサブスクリプション(月額課金)の相性もよい。
アドビのようにインストール必要なソフトウェアを販売するビジネスからクラウドベースのサブスクリプションモデルに移行することでRecurring Revenue(繰り返し発生する予測可能性の高い売上)を中核に業績の予測可能性を高め、より長期的視点からキャッシュを戦略的に配分できるようになったプラットフォーム企業も増えてきた。
レンタルのように直接所有せずサービスとして提供するタイプのソフトウェアであるSaaS(Software as a Service)とプラットフォームは親和性が高い。SaaS企業の最重要指標はARR(Annual Recurring Revenue)で、ARRがコツコツ積み上がるような企業はSaaSではなくともたいていが優良企業だ。
全てが接続された時代では、投資観点からもプラットフォーム企業はウォッチが必要ではないかと思う。
たとえば株価のバリュエーションはともかく(多くが割高なので注意)、一例を挙げれば、アンシス、アイデックス・ラボラトリーズ、シンタス、ローリンズ、サーモフィッシャーサイエンティフィックやドミナント企業の極みである水処理・水道会社のアクアアメリカ、アメリカンウォーターワークス、地味だが地域をドミナントしているごみ処理大手のウェイストマネジメント、リパブリックサービシズなど。
“Content is no longer king, the platform is”
コンテンツ・イズ・キングと言われてきた時代が長く続いたが、パワーバランスとして一部はプラットフォーム・イズ・キング時代になりつつある。
NetflixのようなプラットフォーマーがNetflixのフォーマットでパブリッシャーのコンテンツをジャンルごとに分解して他社の作品とごちゃまぜにすることでワンノブゼム化し、さらにプラットフォーマー自体がコンテンツを作成することで垂直統合が可能とコンテンツホルダーに脅威を与えている。
ただ、裏を返せば、プラットフォームとしての必要十分な性能・動員力が同じだったらコンテンツで差別化するしかないという意味ではコンテンツ・イズ・キングということなのだろう。
たとえばスターウォーズしか興味ない人はスターウォーズ専用の月額課金のストリーミングサービスがあればそれで済むわけなので、NetflixにはNetflixにしかないものがある状態を作らなければならないという点では制作費の消耗戦はエンドレスなのかもしれない。
Netflixの最大のライバルはAmazon Primeでもあるにも関わらずAmazonのクラウドサービスAWSの上にサービスを運営している。
Netflixで気をつけたいシナリオは、各ジャンル特化ストリーミングサービスがROKUなどのストリーミングプラットフォーム上でセット割引(量にはNetflixにはかなわないがまとめることで対抗)などし始めるような動きがあると厳しい戦いになるかもしれない…など有り得る動きとして勝手に想定するプラットフォーム戦国時代の戦略的駆け引き、実に面白い。
Netflixほどの圧倒的なポジションを築いた企業ですら、まだ勝負は分からない。
ディズニーが21世紀フォックスの映画部門などを買収しディズニーのコンテンツ同様Netflixからコンテンツを引き上げる可能性も高い。
また、プラットフォームはシェアで圧倒的でなければ結局あとで競争で疲弊するため、参入する気がなくなるほどの先行投資が必要で、それゆえ赤字企業も少なくない。
Amazonも先行投資にガンガン回すので、赤字が話題になったりする。
利益はお化粧の結果であり、重要なのはキャッシュフローの回転。有効にお金を使っているかどうかに着目したい。
R&Dに投下する規模上位に突出してAmazonが君臨。フルフィルメントセンター、クラウド、音声スマートアシスタントとお金を有意義に使える"成長の器"があることはうらやましいことで、自社株買いでお茶を濁すよりも良いとFactSet。https://t.co/9WcYyP05yc pic.twitter.com/Oh8zh7ZRNE
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年10月13日
ただ、1つ言えることがある。
コンテンツはコピーされるがプラットフォームは容易にコピーされない。
そういった意味でコピー不可能なコンテンツの最上位にあるものはリアルであり、ライブ。
すなわちライブストリーミングプラットフォームでの覇権争いも米中加熱している。
顧客との接点という最重要レイヤーをおさえる意味
プラットフォームということは顧客との接点という最重要なレイヤーをおさえているということ。
例えば、これまでは自社サイトで自社が満足のいく見せ方で販売できていたのが、圧倒的な動員力のAmazonなどの台頭で”Amazonのフォーマット(見せ方)に従って”販売せざるを得なくなった。
さらに消費者の接点をおさえていることで”Amazon自身がブランドとなり”Amazonがプライベートブランドを量産している時代に突入。
AmazonはPrestoというプライベートブランドの洗剤シリーズを出しているが、売れ行きはどうなんだろうか。
これはともかく、Amazonは大量の消費者購買動向のビッグデータを直接もってるから人気Amazonブランドを多数育ててメーカーを下請け化していくかもしれない。 pic.twitter.com/mUSGi44ipx
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年11月4日
消費者の接点をおさえると単純接触効果も含め、マインドシェア(消費者が○○しようと思った時に浮かぶファーストチョイス)を占めることにもつながる。
プラットフォーム化による既存構造の破壊はネットだけではない
たとえばウェイストマネジメントというゴミ処理大手は、特定地域のシェアに買収などによって集中的にリソースを割き、圧倒的に引き離すことで他社を選択肢から除外するドミナント戦略(地域を絞って独占状態まで市場占有率を高める)をとってきた。
しかし近年勢いのあるゴミ処理業界初のユニコーン企業であるルビコン・グローバルのように、米国ゴミ処理業者最大手ウェイストマネジメントで規模で負ける小さなゴミ収集企業をプラットフォームによって統合的に企業や自治体とマッチングさせて(小さなゴミ収集企業が国単位の大きな入札の一部に参加できるマーケットプレイスを構築)、そのエリアで独占状態だったウェイストマネジメントやリパブリックサービシズなど大手以外の選択肢を提供できるようになりつつある。(ただ、新設が規制で難しいゴミ処理場を多く抑えている点が違う”規制産業”であるため正しくは破壊ではなく共存といったところだろう。)
また、第三者企業を無数に取り込んでいくプラットフォームというわけではないが、プラットフォーム的な戦略の強さの1つが理解できる例として、ASMLの”持たざる者ゆえのプラットフォーム戦略”の例がある。
上記ルビコン・グローバルのプラットフォーム戦略も”持たざる者”ゆえの後発組がとれる唯一の戦略に近かったが、当時のシェアで圧倒的に劣勢だったオランダの半導体製造装置メーカーのASMLが半導体露光装置でシェアを圧倒的に奪還していったのも、パートナー企業達と”共に勝つ”プラットフォーム的なオープンイノベーションの枠組みで効率化していったことでもある。
プラットフォーム+エコシステム形成の威力を軽視する企業は気づくと不可逆的にイノベーションのジレンマで破壊される側になっている。
ドミナント戦略の代表的小売企業ウォルマートもIT投資の出遅れを前CEOが激しく後悔し、IT投資に利益を大幅に削って独自のシームレスプラットフォーム化戦略を採用し、ようやくAmazonに滅ぼされるコースからは離脱したように見える。
ウォルマートはウォーレン・バフェットにも見放されていたレベルだったがギリギリセーフか?後手になればなるほど高コストになる例だった。(これでもウォルマートは早い方)
プラットフォームがドミナント戦略を超越したということは、上述の例のようにECと実店舗で明白に差がでたことからも分かるが、これについて掘り下げれば“ネットが実店舗を上回ったのではなく、プラットフォームが実店舗を上回った”という点。
つまり、単純に ネット>実店舗 という話ではない。
たとえばアリババ創業者のジャック・マーが提唱する「ニューリテール(新しい小売業)」のうちの1つの形はビッグデータを中心にオンラインとオフラインを融合させプラットフォームに取り込んでいく動き。
中国最大級のECサイト群を展開するアリババのBtoBプラットフォームによるサプライチェーン・圧倒的仕入れ力をベースとし、アリババの保有する巨大な販売データからその地域ごとに売れる商材をオフライン(実店舗)でも最適化。
また、店舗では通常店舗のようにその場で決済後に商品を受け取れるが、今すぐ受け取る必要がないものは、決済後そのまま30分以内に自宅までデリバリーしてくれるロジスティクス能力を持つスーパー(盒馬鮮生/ハーマーシェンシャン)などが興味深い動きだろうか。
アリババのニューリテールにおいては百貨店などでも重い紙袋を大量に抱えたまま歩き回る必要はもうなくなったのである。
そしてそれを”プラットフォームとして他社に提供“し、アリババ・ニューリテール網を拡大(実店舗はアリババの持つビッグデータとシームレス・サプライチェーンに組み込まれていく)。
似たテーマでは、店舗では商品を実際に触ったり試着・サイズなどアドバイスを受けることができるのみで、消費者にはネットで注文してもらうアパレル企業のボノボス(ウォルマートが買収)のような動きもアメリカで盛んだ。
Amazonが実店舗であるスーパー(ホールフーズ)を買収したことも、実店舗×ECで莫大なIT投資でシームレスに実店舗を強みに変えて飛躍的にECを伸ばしたウォルマート対策でもあるが、プラットフォームとしての延長線上には顧客との接点の拡大は重要な要素で、Amazonが補完したい生鮮食品などのビッグデータが必要で、あとはアリババのニューリテール戦略と同様の発想だろう。
“新ドミナント戦略”におけるプラットフォームは先行投資で唯一無二のレベルまで他社を引き離す必要があるが、一度プラットフォームを肥大化しエコシステム形成で他社もガッチリ抑えてしまえばもはや参入してくる企業はほとんどいなくなる。
話がやや脱線したが、プラットフォームは本当にビジネスとしても面白く、見るべきKPI(主要業績評価指標)も分かりやすいので、定点観測しながら陰りが見えるまでは順張りで投資できる投資対象としてウォッチする価値があるだろう。