次世代エレベータMulti by ThyssenKrupp Elevator
1853年にニューヨーク万国博覧会で発明が初披露されたエレベーターに160年ぶりに革命が起きた。
エレベーターで欧州最大シェアのティッセンクルップが発表した次世代エレベーター「MULTI」は、なんと従来のエレベーターのような垂直移動だけでなく水平移動が可能なエレベーターなのだ。
これが、縦にも”横にも”動ける世界初ロープなしエレベーターのPVで、従来のエレベーターがロープ(ケーブル)の制約で1シャフトに1キャビン(乗客の乗る箱)だったのに対し、MULTIはケーブルから解放されたため、1シャフトに複数台のキャビンを自由に移動させることができるので時短できる点が大きな強みだ。
MULTIの特徴まとめ
- 1シャフトに1台どころか複数台動かせるので建物内スペースを最大25%節約できる
- 従来のエレベータよりも50%も多くの乗客を運ぶことができる
- 乗客の待ち時間を減らせる。建物の大きさに関わらず15-30秒待つだけで済む
- 混雑状況を判断し最短移動ルートを計算するソフトウェアによってキャビンの無駄がでない
- 従来のエレベーターよりもピーク時エネルギーを60%も減らせる
- CO2排出量を減らせる
- 従来のケーブル式エレベーターと違い建物の高さに制限なし
- 建築デザインの自由度が増す
- 鉄道の駅と建物を結びつけるなど建物内・建物間移動の概念を変える
- 従来のエレベーターより3倍から5倍の価格(リリース時点)
従来の高層エレベーターは行く階ごとに乗り分ける必要があったが・・・
従来のエレベーターは垂直に1本のロープ(ケーブル)と1台のキャビンだった。
そのため、特に高層ビルでは「21F-30Fはこちらのエレベータ」などシャフトごとに用途が分かれていることは珍しくなかったが、これは使われないシャフト・キャビンが無駄になっている時間があることを意味する。
それに対しMULTIでは、建物内の鉄道システムかのように、シャフト(ループ)内で複数台のキャビンが動作する。
エレベーターに乗る人が行きたい階の場所を指定すると、ソフトウエアが他のキャビンの混雑情報をもとに最短ルートを計算して動くため、常に複数のキャビンが連携し無駄が出ない。
ケーブルから解放された自由移動エレベーターが建築に革命をもたらす
MULTIのキャビンは縦移動・横移動・逆に反転する移動を可能にするシャフト内に取り付けられたガイドに沿ってリニアモーターで動作する。
シャフト内のかなりの重量のケーブルが制約となっていた従来型エレベータと違い、MULTIはシャフトの長さに制約がないため超高層ビルの記録は塗り替えられるだろう。
ケーブルの重さや制約、利用者の利便性確保のため建物が高層化されるほどエレベーターの占める面積が大きくなってきた従来と違い、高層ビルこそMULTIのようなシステムの強みが発揮される。
そのため、エレベータがボトルネックで高さによる制限のあった高層建築物の建築デザインにも大きく影響を与えるだろう。
水平移動が可能になったため建物内・建物間接続も発想を変える必要がある
何よりも、水平移動が可能になったことがシャフト内での複数台キャビン運用を可能とした。これまで一本道だったシャフトの経路が複線化することでキャビンの無駄を省いた。
高層ビルの移動方式が効率化されるだけではなく、水平移動による建物間連結が可能になったことで、例えば駅構内などの動く歩道のようなシステムの一部も今後はMULTIエレベータに代替されていくだろう。
鉄道の駅と建築物(ホテル等)がより一体化されていく可能性もある。
最初のマルチエレベーターはドイツベルリンにあるEast Side Towerにて2019年には登場するとのこと。
ティッセンクルップ・エレベーターCEOは「MULTIは人々の移動、働き方、生活環境を真に変えるゲームチェンジャーだ」と宣言する一方で「MULTIのライセンスについて競合他社含め話し合う」とした。
ティッセンクルップだけで扱うには市場が大きすぎる(時間がかかる)ため、競合する技術が出る前にライセンス化してメンテナンスを見据えた規格一本化で巻き込んで稼いでいこうというスタンスだろう。エレベーターはメンテナンスも大きな収益源だからだ。
ティッセンクルップとそのライバル
ティッセンクルップは1811年創業のクルップと1867年創業のティッセンが1999年に合併して設立されたドイツ最大の製鉄メーカーで、鉄鋼とエレベーター以外には、プラント、自動車部品、潜水艦なども。
同社子会社のThyssenKrupp Elevatorは世界最大のエレベーターメーカーであるオーチスと競争している。
オーチスは1853年にニューヨーク万国博覧会で初めてエレベーターの発明を発表したエレベーターの祖であり、米国ユナイテッド・テクノロジーズの傘下にある。