Guidewire Software, Inc.【NYSE:GWRE】
ガイドワイア ソフトウェアは損害保険会社に特化した業務用ソフトウェアを提供するプラットフォーム企業。
2001年に米国で設立されたガイドワイアは、変化に対応しにくかった損保業界のレガシーコアシステムを柔軟なプラットフォームに置き換え業務の生産性向上を支援している。
ガイドワイアはコア・プロセシング(損害保険基幹業務システム)、データと分析、損害保険会社と保険契約者および代理店をつなぐデジタル・エンゲージメントの3つの要素を統合したテクノロジー・プラットフォームを構築。
それぞれの顧客数の推移グラフと共に製品内容を確認していこう。
Guidewire ClaimCenter
個人保険、企業保険、労災保険など全保険種目をサポートし、単純なタスクの自動化やコラボレーションなど損害サービス業務を効率化する損害調査業務システム。
Guidewire PolicyCenter
保険商品定義から保険引受の効率化、申込、異動、解約、更改まで保険契約のライフサイクル全体の管理。
Guidewire BillingCenter
保険料収納管理ソリューション。請求処理のライフサイクルを自動化、未回収の既経過保険料を特定できるため請求漏れが減少。
それぞれ保険会社の既存システムやサードパーティー・アプリケーションと統合することも可能で、以下のInsuranceSuiteの一部として包括的に連動させることもできる。
Guidewire InsuranceSuite
保険会社が記録向け業務システムとして利用できる基幹システムを提供し、保険引受、保険契約管理、請求処理、クレーム管理などの損害保険業務の主要業務のすべてをサポートするプラットフォーム。
Guidewire DataHub
複数のシステムに点在するデータを収集、分析、テストおよび検証してデータの整合性を確保し、保険データモデルによるデータの統合と連携。
Guidewire InfoCenter
損害保険業界向けに特化したBI(ビジネスインテリジェンス)ツールで、ダッシュボードに保険契約、請求処理、損害サービス、第三者のデータを統一的に表示し、KPIによる社内のパフォーマンスのインサイトも表示。
Guidewire Predictive Analytics
複数のデータセットからの予測モデル構築、モデル分析・検証などデータ主導の意思決定を支援し、損害調査費を削減、不正確な価格設定を特定・修正し収益を増加させる。
Digital
モバイルファーストで保険の見積もりや契約を行えるなどデジタルエンゲージメントを高め、代理店と顧客との連絡を自動化する保険契約者・代理店・外部関係者のセルフサービス。
全プロダクトで顧客数が増加しており、世界中30か国以上で全体としても326社以上の保険会社に製品とサービスを提供している。
ガイドワイアのサブスクリプション・シフト
レガシーの基幹システムの入れ替え、ゼロからの新規導入などサービスプロフェッショナルが技術スキルを提供するサービス比率が高かったが、現在の売上構成比率はライセンス主体。
そしてサブスクリプションモデルへの転換をはじめており、短期的には売上成長が減速する。
サブスクリプションモデルへの移行はARR(Annual Recurring Revenue)の伸びを重視する必要があり、これは度々取り上げているアドビの例を参考にすると良い。
参考: アドビ・システムズのサブスクリプション転換の成功の軌跡
このようにアドビの例ではサブスクリプションモデルへの移行で永久ライセンス収入が落ち込んだことで全体の売上高は減速したがARR(サブスクリプションによる年間経常収益)はしっかり伸びていた。
サブスクリプションモデルへの移行に伴う一時的な経営見通しの悪さでオートデスクやタブローソフトウェアなど多くのサブスクリプション転換企業の株価は著しく下がったので、場合によってはガイドワイアもそういった株価下落は想定する必要があるかもしれない。
大手損害保険会社の多くが顧客のガイドワイア
損害保険は人とビジネスを保護し、社会が機能する上で重要な役割を担っており、損害保険会社の収支状況を見る指標としてはコンバインドレシオというものがある。
コンバインドレシオ = 保険料収入に占める保険金支払いおよび損害調査費用の割合を表す損害率 + 保険料収入に占める経費の割合を表す事業費率を足したもの。
ガイドワイアはクレームセンターで損害調査費用のコスト削減など、効率化し生産性を高める製品で損害保険会社のコンバインドレシオを引き下げながら、保険商品と価格設定を効率よく変更・展開し、新商品を市場投入する能力の強化につなげるプラットフォームを提供しているわけだ。
大手損保を中心に顧客化しており顧客定着率も高い。
北米比率が高いが、他の地域でも北米以上に売上が成長している。
例えば米国におけるライセンス・メンテナンス売上高が2013年から2017年にかけて2倍になったが、欧州やアジアでは2.4~2.5倍に成長している。
クラウドとオンプレミスの両方に対応したガイドワイアのプラットフォーム。
InsuranceNowというクラウドベースのオールインワンソリューションも提供しはじめている(米国から)。
Live Analyticsなどのクラウドネイティブな分析サービスも提供しはじめている。
また、セールスフォースと提携して、損害保険業界のニーズに最適化したCRMを提供。
CRM(顧客との関係を強化)で世界最大シェアのセールスフォースとの連携は多くのSaaS企業が行っており、良い提携だろう。
ガイドワイアはセールスフォースのビジネスアプリマーケットプレイスのSalesforce AppExchangeにも参加する。
なお、ガイドワイアもアプリマーケットプレイスを構築している。
たとえば手作業の書類作成を排除するDocuSignのAPIを連携させることでガイドワイアの顧客は書面への署名が不要になり、保険契約者の新規保険契約の署名、アカウントの維持、クレーム申請を簡略化できる。
また、2017年にリスク評価モデル開発の米サイエンスを約2億7500万ドルで買収。
サイエンスはデータサイエンスとリスク分析や機械学習を駆使し、損害保険会社にサイバーリスクや風評リスクなどの「21世紀のリスク」の引き受けと価格設定の判断に関する基準を提供。
競合企業は以上の通りで、たとえばダッククリーク(Duck Creek)はバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway Specialty Insurance)およびその傘下の自動車保険会社GEICOを顧客にしているプレイヤーだ。
他にInsurity, Majesco, Sapiens, DXC, Keylane, Fadata, TIA, RGI, SSP, SAP, Prima, eBaoTech, Sinosoft等。
参考: 調査会社ガートナーによる格付け
ガイドワイアの業績推移グラフ
*2018年度はTTM
サブスクリプション移行の間はマージンが低下したり売上が鈍化したり、痛みが伴うが、それを乗り越えれば経営の予測可能性が高まり長期的には正しい経営判断だと思われる。
ガイドワイア ソフトウェアの株価
ガイドワイアの決算や最新の業績詳細に関しては以下の記事で特集している。