オンラインフードデリバリーを超えた企業となったGrubHub決算を定点観測【NYSE:GRUB】

GrubHub, Inc.(NYSE:GRUB)の決算および今後の最新決算を逐次まとめる記事。

米国オンラインフードデリバリー最大手のGrubHubの事業内容に関してはすでに以下の記事で解説している。

GrubHub, Inc.【NYSE:GRUB】 グラブハブは米国のオンラインフードデリバリー最大手。 出前を注文したいユーザーは同社...

GrubHubの業績と注目ポイントを整理

<Q1’19注目ポイント>
✓ 競合Uber Eatsやドアダッシュはグラブハブの強いエリアを避けシェアとってきた

✓ そのためグラブハブの顧客維持率もテイクレートも上昇トレンド維持

✓ 顧客獲得コストも上昇トレンドではある

✓ 今後縄張りがぶつかりあうところの勝負が見もの

<Q4’18注目ポイント>
営業利益、調整後EBITDAマージンが圧迫。Uber Eatsが全米でシェアを伸ばしている。

<Q3’18注目ポイント>
テイクレート(注文に対するGrubHubの取り分)が順調に上昇。買収によって地域をドミナントし、出前を注文したい人は一番取扱いの多いGrubHubで注文するため、レストランにとってGrubHubの影響力が高まっている。

また、コスト構造の変化を見ると配達員報酬などの「Operations and support」が上昇しているが、認知度の高まりによる宣伝コスト比率と一般管理費比率の低下によって売上に対して全体としてのコストは一定にコントロールされて質の高い経営がなされている。

Operations and support
レストランの出前注文を注文したお客様に配達する配達員に対する支払いで主に構成される。

ギグ・エコノミーに依存したGrubHubは配送する請負業者への支払いがかさむ。

寡占限界レベルまで同業フードデリバリー他社を買収し、次は垂直統合へ買収戦略をシフト

業績グラフを見ての通り注文数がスパイクしているのはEat24買収の影響。

Yelp傘下で同業のEat24を買収し、地域口コミサイトのYelpとの統合(Yelp上の出前注文はGrubHubプラットフォームと連動)によるスケールメリットと運用上のシナジーが大きい。

Eat24のブランドは廃止する決断をしたようだ。1つの世界的ブランドのUber Eatsなどと全米で戦うには短期的に痛みを伴うが正しい判断なのではないだろうか。

連続的な買収によって成長し、ドミノピザやピザハットなどピザ配達チェーン以外のフードデリバリーサービスシェアでおよそ半分のNo.1シェアのGrubHubだが、ギグ・エコノミーにおいて配達員回転効率の良いUber Eatsの躍進が脅威だ。

ただ、GrubHubはニューヨークなど収益性の高いエリアをおさえているので必ずしもこのままシェアが低迷するかどうかは不明。

UberはUber Eats儲かりすぎるので世界展開を急ぐとしており、フードデリバリー世界最大手となろうとしている。

そのためUberはリソースの配分は米国だけに集中させることはできないが、GrubHubは世界で最も重要な(収益面で)市場である米国で規模を確保した後に、質を高めるフェーズにシフトした。

それがはっきりしたのがLevelUp買収。

単なる出前プラットフォームを超えてレストランのPOS・CRMや決済まで垂直統合する

GrubHubが2018Q2決算に合わせ、レストランチェーンにPOS統合、モバイル決済、顧客関係管理(主に顧客ロイヤルティ)と分析ツールを提供するソフトウェア企業のLevelUpを3億9000万ドルで買収したことを発表した。

thelevelup
<2011年に設立され急成長していたLevelUpのサービス>

  • レストランのスマホアプリでスマホ決済(店舗内QRコード決済、事前決済、オンライン注文・決済)を可能にする
  • 自社アプリでロイヤルティプログラム(会員ポイントサービス等)
  • アプリからメニューや注文を確認できる
  • 店の近くの顧客にビーコンで販促メッセージ
  • 全ての主要POSシステムと統合

毎日10万件を超える注文と約4億ドルの年間レストラン売上高においてLevelUpのサービスが活用されている。

LevelUpはこれらの取引手数料(少額)とサービスのサブスクリプション収入を主とし、前年比売上高成長率は50%増と成長企業

LevelUp Dashboard Demo

店でのQRコード決済だけでなく、事前に支払う導線設計も可能。

つまりスターバックスが開発し爆発的にヒットさせたMobile order & payが早くもコモディティ化してしまったことになる。(多くのレストランチェーンがスタバの成功に続けとばかりに引き合いが強かった決済サービス)

このように、GrubHubはレストランのモバイルエンゲージメントとPOS・支払いソリューションのリーダーのLevelUp買収で、他のフードデリバリーサービスに対して差別化できるようになったわけだ。

規模(エリア)の拡大のフェーズの他社に対し、GrubHubは配送を超えたレストランのビジネスパートナーとして競争力のある長期的ポジショニングへも戦略をシフト。

LevelUpの買収はヤム・ブランズとのビジネスパートナーシップをさらに深めることになりそうだ。

ヤム・ブランズはGrubHubと戦略的提携し、傘下のKFC(ケンタッキーフライドチキン)とタコベルの出前注文をGrubHubが独占的に扱う(ホワイトラベルで)こととなって、GrubHubに出資し役員も派遣している。

ここでいうホワイトラベルとは、GrubHubプラットフォームではなくレストランブランドのアプリを裏で支えるGrubHub注文システム。

決算カンファレンスコールによると「2018年末までにKFCとタコベルの出前注文エリアの3分の2以上をカバーすることができるようになっている」とのこと。

全米レストランチェーンのKFCとタコベルを独占的に取り扱う意義はすさまじい。

LevelUpはレストランブランドのアプリで決済やCRM機能を提供するホワイトラベルのサービスであり、GrubHubもヤム・ブランズのKFC等にホワイトラベルでオンライン出前注文サービスを提供しているようにビジネスモデルとしては統合はしやすい。

オンライン決済でいうところ一部の企業がPayPalではなくAdyen(黒子的存在)を好むのと近い。

LevelUpは200のレストランブランドにサービスを提供しているが、拡大し続けるGrubHubのレストランのパートナーシップ拡大と共にクロスセルしていけそうだ。

デリバリーとPOS・決済・CRMでレストランとのビジネスパートナーという観点からいえばUber Eatsより競合として戦略がかぶっているのは実はSquareだったりする。

シンプルなPOS・決済サービスのSquareはサンフランシスコでNo.1シェアのオンラインフードデリバリーサービスのCaviarを買収しており、2018年5月にSquare for Restaurantsを発表し、バーティカル(垂直統合)SaaSとして伸びている。

そういった意味ではGrubHubのLevelUp買収はSquareを意識した動きなのかもしれない。

GrubHubの決算を時系列でまとめる

GrubHub ’19 Q1決算> 2019/4/25
EPS(Non-GAAP) $0.30 予想 +$0.05
売上 $323.8M (+39.2% Y/Y) 予想 +$1.54M

GrubHub ’18 Q4決算> 2019/2/7
EPS(Non-GAAP) $0.19 予想 -$0.09
売上 $287.72M (+40.3% Y/Y) 予想 -$2.32M

GrubHub ’18 Q3決算> 2018/10/25
EPS $0.45 予想 +$0.04
売上 $247.23M (+51.6% Y/Y) 予想 +$8.48M

UberがUber Eats拡大に積極投資していく方針ということでシェア圧力がかかっていきそうだ。

売上高マルチプルが十分評価されているので少しのショックで急落するのがこういった高成長株。

厳しい戦いで競争激化懸念はあるものの、グラブハブはキャンパス内デリバリーという排他的かつMobile Order & Payプラットフォームを展開するTapingoを買収しており、垂直統合的に正しい買収戦略をとっているように見える。

Mobile Order & Pay(モバイルオーダー&ペイ)とは? アプリで事前にメニューを選んで注文・決済し、店舗ではレジ...

GrubHub ’18 Q2決算> 2018/7/25
EPS $0.50 予想 +$0.08
売上 $239.74M (+51.0% Y/Y) 予想 +$6.74M

Yelpから買収した同業のオンラインフードデリバリーサービスのEat24の影響が大きい。

<Eat24の買収の影響を除くと・・・>
売上高前年比約34%増
出前注文取扱高は前年比で約22%増加(平均注文単価は3%増)
DAGs(Daily Average Grubs)は前年比約19%増加

その他カンファレンスコールを聞いてみると、Q1に比べドライバー効率が改善。注文あたりの平均単価が上昇したこと、注文あたりのOps & Supprortが減少したことによる。

ただ、KFCとタコベルのフットプリントを拡大するためにも新しい出前可能エリアを開拓するにあたって、効率性の悪い市場の比率は増えるので下半期はさらなる改善は抑制されそう。

また、LevelUpの買収は独占禁止法の審査待ちのため、ガイダンス範囲から除外している点は注意。

GrubHub ’18 Q1決算> 2018/5/1
EPS $0.52 予想 +$0.13
売上 $232.6M (+49.0% Y/Y) 予想 +$3.27M

Uber Eatsとドアダッシュが特定エリア(Tier-2やTier-3都市)でグラブハブ以上に伸びている。

グラブハブもPayPal傘下のP2P送金アプリのVenmoと提携して割り勘でデリバリーを注文できるようにしているなど、まだゲームは決まったわけではない。

GrubHub ’17 Q4決算> 2018/2/8
EPS $0.37 予想 +$0.06
売上 $205.08M (+49.2% Y/Y) 予想 +$3.34M

ヤム・ブランズとの提携でグラブハブがKFCとタコベルの出前の唯一のパートナーとなった。ホワイトラベルでデリバリーする。

他の出前プラットフォームの地域ドミナント戦略を切り崩すためにもこういった全米規模のレストランチェーンの契約を獲得していくことは重要。

プラットフォームは「Winner Takes All」であり、グラブハブはさらに覇権が強まるが、地域別で各企業がドミナント戦略的に得意エリアを開拓しているので、過度の期待は禁物かもしれない。

また、飲食店も加盟店間のランチのサブスクリプションサービスを始めたりしている。デリバリーではなくテイクアウトで稼働率をプラスアルファするというビジネスモデルだ。

いずれにせよ小売も飲食店も「アプリも1種の店舗」になった時代なのだなという感がある。

カンファレンスコールを聞く限りはTier2-3都市での競争にも強気だった。

人気ハンバーガーチェーンFIVE GUYS(ファイブガイズ)を新たなパートナーにしている。

GrubHub ’17 Q3決算> 2017/10/25
EPS $0.28 予想 +$0.04
売上 $163.1M (+32.1% Y/Y) 予想 +$3.41M