ファイサーブ(Fiserv, Inc.)は主に銀行をクライアントとする金融情報処理サービス、俗にいえばFinTech(フィンテック)企業で1984年に企業合併により設立。
- 売上の80-85%が複数年契約かつ継続維持される内容で収益予測性が高い
- それゆえフリーキャッシュフローを潤沢に回転させることができFCFコンバージョンが高い
- 銀行は統合などで数が減っているが口座・預金残高は増えている
- 銀行のワークフロー深くまで入り込んだサービスを提供しているのでスイッチングコストが高くほぼ99%の高い顧客維持率
- 業界自体が寡占で、米国の銀行の1/3のシェアを確保しているファイサーブがスケールメリットを享受
ファイサーブはフリーキャッシュフローマシーン
ファイサーブは銀行のバックエンドを合理化し支援する業務ソフトウェアを提供している。
米国の銀行の数は年間-3%ぐらいのペースで減ってはいるが、口座や預金残高等は増えているので預金口座サービス・取引処理サービスの手数料は安定した収益源だ。
まさにフリーキャッシュフローマシーン、ITサービスの提供で利益率が高い上に反復性のあるビジネスモデルゆえの産物だ。
このドル箱システムからとてつもない自社株買いでEPSを尋常じゃなく底上げしている。10年で3分の1もの株式を自社株買いで減らした。
フリーキャッシュフローコンバージョンが高いのは、予測可能性の高いビジネスだからこそ為せる優位性だろう。
キャッシュは自社株買いだけではなく、買収によって銀行のコア業務にさらに深く入り込むサービスを補完しつつあり、たとえば2007年に44億ドルで買収した電子決済サービスのCheckFree(チェックフリー)は素晴らしい買い物だった。
この先見の明のある買収と同時に利益率の低い業務を売却して組み替えているので、ポートフォリオマネージャーとしても優秀な経営陣と判断できる。
実際フォーチュン500の最も賞賛される企業に連続でランクインしている。
ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイも2010年中盤から終盤までのおよそ半年間未満の間だけファイサーブを440万株保有していた。そのまま保有でも十分なリターンが得られたはずだった。
ファイサーブの業績推移グラフ
2007年にチェックフリーを買収しているため売上高はその影響で2008年にポップしているが、それなりに金融危機の影響を受けていたとはいえ、銀行などのダメージに比べれば耐久性があることが示されている。
金融危機でもフリーキャッシュフローは潤沢に生成されており、リーマン・ショックからギリシャショックあたりの金融業界の厳しい時期も、株価が下がれば強烈な自社株買いの好機と20%以上も株式を減らしている。
ファイサーブ決算
Fiserv (NASDAQ:FISV) Q3
EPS $0.75 予想 -$0.02
売上 $1.41B (+0.7% Y/Y) 予想 -$20M株価は時間外で-2.9%
米国の3分の1の銀行のバックエンド合理化・金融情報処理サービス。https://t.co/mgw2RvySVshttps://t.co/9JL0OhLhaT pic.twitter.com/6PG28FeCJt
— 米国株 決算マン (@KessanMan) November 1, 2018
ファイサーブは金融業務プラットフォームとして各方面に種撒き
いくつも付加価値・成長の触媒となるサービスを追加しており、たとえば「CardValet」と呼ばれる銀行が発行するクレジットカードにセキュリティ対策の付加価値を与えるサービスを提供している。
CardValet機能を付加されたクレジットカード保有者は、自分が住んでいる地域・国など特定の場所以外でのクレジットカードの仕様を予め拒否設定にできる。これでネットで流出やハックされてしまった場合に国際的なクレジットカード詐欺などの被害を未然に防止できる。
また、事前に設定された金額のしきい値を超えると決済できないようにするなどのコントロール設定も可能なのはもちろんのこと、クレジットカードの決済を許可するジャンル(ホテル・スーパー・レストランなど)を設定することができ、自分の行動の範囲外の決済を禁止しておくことで不正防止をできる安心感を提供するサービスだ。
このような付加的な金融サービスをいくつも提供することで、銀行とのパートナーシップを深め、他社への乗り換えを防いでいる。
また、銀行にモバイルバンキングソリューションを提供するMobilitiのようなサービスもある。
Venmo一強になりつつあるP2P決済でも種を撒く
PayPal傘下のVenmoというP2P決済、つまり友達などに直接送金するのを手軽にするサービスでとてつもなく伸びているサービスがあるのだが、このP2P決済カテゴリ自体が非常に伸びている。
ファイサーブも同様のP2P決済サービスを展開していたが、同様のP2P決済のPopmoneyを買収して統合してシェア拡大を狙っていた。
しかし正直これは現状いまいち消費者の評判がよろしくない。VenmoではなくPopmoneyを選ぶ理由がない。
もちろん今後テコいれはされていくだろうが、Venmoが構築してしまったネットワーク効果は強力だ。
銀行もこのP2P決済の伸びに警戒感をもっており、Zelleという銀行同盟の共同P2Pプラットフォームを構築してVenmoに対抗しようとしている。
Zelleは、送金受信者のメールアドレスか携帯電話番号のみを使用して銀行口座から別の銀行口座に直接送金することができる仕組みだ。米銀大手が主導している。
ファイサーブにとってZelleはパートナーであり「Turnkey Service for Zelle」というZelleの実装を行うサービスを提供している。
銀行コアシステムプロバイダー業界の競合
フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービシズ(FIS)
Fidelity National Information Services
ジャック・ヘンリー・アンド・アソシエーツ(JKHY)
Jack Henry & Associates, Inc.
DHコーポレーション(カナダ)
DH Corporation
Harland Financial Servicesを買収し米国での足場を強化
ファイサーブ株価
自社株買いでなかなか調整を許さない相場作りを行っている。
ほぼ99%の高い顧客維持率で、同社の最近の調査によると他社にスイッチする恐れがあるクライアントは10%に過ぎなかった。
もちろん他社の”FinTech”で破壊的イノベーションがおこされる可能性は0ではない。