デュポン(DuPont)はアメリカ三大財閥の1つとして1802年創業以来2世紀を超えて持続する化学製品製造企業(近年は統合的科学企業へ移行)。
デュポンは世紀ごとに全く別の企業体であり、火薬事業の100年、化学事業の100年、そして現在は化学メーカーから工業バイオサイエンス、農業・食品、先端素材などをコアとした新しい技術・事業分野へ事業再編しつつある。
ダウ・ケミカルとの経営統合で2017年9月1日からはダウ・デュポン(DowDuPont Inc.)として発足している。
ダウ・デュポン株価チャート
デュポン200年の略史
正式な社名「E. I. du Pont de Nemours and Company」の通りフランスがルーツのデュポンは、フランス革命を逃れて米国に移住してきた名門貴族デュポン家がフランスで得た火薬の知識をベースに米国において火薬工場を立ち上げ(火薬製造機械をナポレオン・ボナパルトから原価で仕入れた)、当時質の悪い火薬が主流であった米国で瞬く間に米国1位の火薬メーカーとして財を築いたことが原点であった。
デュポンによって製造された黒色火薬は南北戦争や開拓・鉱山開発などに使われ、世界大戦中は多数の国に火薬を提供し、のちに同社は原子爆弾を生産した(マンハッタン計画)ことでも知られ、戦後は死の商人としてのイメージを払拭することに苦心した。
反トラスト法で火薬ビジネスとともに分割されるまでは一時期は米自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)もデュポン財閥の傘下であった。
火薬製造で築いた財を多角経営のためにM&Aを重ねて、合成樹脂、合成繊維、ナイロン、テフロンなどの素材の開発など総合化学メーカーとして世界展開し、繊維事業のコモディティ化に伴い売却し、バイオ・農業・食品・高付加価値素材に事業転換しつつある。
Du Pontの大型の買収・事業再編の歴史
火薬メーカーだったデュポンが戦後の展望としてリスクヘッジをかけていた化学事業にシフト(反トラスト法による分割)して以来、様々な買収・売却と大小の事業再編を続けており、近年の大きな再編の動きを以下に紹介する。
追記:2016年にダウ・ケミカルと対等合併(ダウ・デュポンとなった後3社分割)に合意。
医薬品ビジネスからの撤退
1991年に独製薬大手Merck(メルク)との合弁会社(50/50JV)DuPont Merck Pharmaceutical(デュポン・メルク・ファーマシューティカル)を設立し自社の医療分野を移し、その後1998年にメルクの持分を25億ドルで買収し完全子会社化(DuPont Pharmaceuticals)した。
しかし営業利益半減と成果をあげることができず、たった3年後の2001年にBristol-Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)にデュポン製薬を78億ドルで売却。
当時のチャールズ・ホリデーCEOによると「規模においてもワールドクラスの会社になることができない領域からは撤退すべし」という判断での売却ということであった。
オイルメジャー・繊維事業売却
デュポンはオイルショックで石油価格が高騰したときに主力であった繊維事業等の原材料とその生産過程の燃料を安定調達する意味もあって1981年にコノコ(現コノコフィリップス)を買収した。
このコノコ取得によって原料の安定化と繊維事業の売上依存度の割合を減らすことが同時に達成できたが、巨大な石油企業が傘下であることは高付加価値事業にシフトしていきたいデュポンの足かせともなってしまった。
1940年に婦人用ナイロンストッキングを発明し、石油を原料とした化学繊維の分野でデュポンはマーケットリーダーだったが、1970年代後半以降、デュポンは以前より利益率が減少していた汎用化学品事業からの撤退を模索していたところであり、より長期的な視点で高付加価値の利益率の高い事業へシフトしていくために、両事業を売却。
1999年: コノコを売却
当時売上の4割がコノコからであった。
2004年: ナイロンなどの繊維事業を売却
当時のデュポン売上高の約4分の1の事業だったデュポン繊維事業部門インビスタ(Invista)をコーク・インダストリーズ(Koch Industries, Inc.)に44億ドルで売却。
これによってコモディティ化した製品による規模よりも高付加価値事業による利益率を重視した経営にシフト。
新たな成長領域へ進出・強化
コノコ売却資金で1999年に種子大手のパイオニア・ハイブレッド・インターナショナル(Pioneer Hi-Bred International, Inc.)を77億ドルで買収している。
微生物と種子の生産会社であるパイオニア株式の20%は1997年に17億ドルで取得済だった。
コノコ売却資金の残りは1999年に自動車塗料分野で世界最大のハーバーツの買収などにあてられた。
ちなみにデュポンの自動車塗装部門は2012年にカーライル・グループに49億ドルで売却しデュポンは自動車塗料部門から撤退した。
2011年デンマークの食品原料開発大手ダニスコを63億ドルで買収
ダニスコは天然素材を原材料とした乳化剤や機能性甘味料などの食品添加物、農産物加工、バイオ燃料に利用される産業用酵素製品の開発・製造を行っており、日本でもダニスコが開発したキシリトールは知られていますね。
デュポンの業績推移グラフ
デュポンは株主重視の経営を続けており、株主配当を1904年から100年以上続けていて減配したことがない。
農薬・種子など 競合化学メーカー
ダウ・ケミカル(DOW)
―The Dow Chemical Company
―子会社Dow AgroSciences(ダウ・アグロサイエンス)
―米Rohm and Haas(ローム・アンド・ハース)を2001年に154億ドルで買収した際に農薬事業にも参入。
モンサント(MON)
―Monsanto Company
―米国の世界シェア上位の種子・農薬メーカー
シンジェンタ
―Syngenta AG
―スイスの世界的農薬・種子メーカー
―2000年のノバルティス(スイス)と英アストラゼネカの農薬事業が統合
BASF
―BASF SE
―ドイツの総合化学メーカー
バイエル
―Bayer AG
―ドイツの化学・製薬メーカー
FMC
―米大手農薬メーカー。
―2011年にバイエルクロップサイエンスから殺菌剤製品買収。
―2014年にデンマークの殺菌剤原料メーカーcheminova(ケミノバ)を買収。
アダマ(イスラエル)
―ADAMA Agricultural Solutions
―旧マクテシム・アガン(Makhteshim Agan)
―世界最大のジェネリック農薬メーカー
―2011年に中国化工集団(ケムチャイナ)傘下に。
みんなの投資分析とコメント
私がデュポンに投資しはじめた頃は
農業・食品事業 29%
―農薬、遺伝子組み換え作物
電子情報 9%
―太陽電池、電子情報材料、ポリイミドフィルム
機能化学品 19%
―酸化チタン、フッ素樹脂、化学品
機能性塗料 12%
―自動車用塗料、粉体塗料
機能性材料 20%
―エンジニアリングプラスチック、エラストマー
安全防護 11%
―アラミド繊維、防護服、建築材料
といった事業ポートフォリオでしたが、今後はさらにアグリビジネスに力をいれているんですかね。
農薬は今はジェネリック農薬が急成長していますが、やはり農薬は種子とセットでモンサント流にいくのが手堅そう。
デュポンは遺伝子組み換え種子BIG3にはいっているぐらいですからねえ。
デュポンのダウ採用の歴史は古く1935年11月20日に採用されてますね。
デュポン社が発明した主要製品を整理しておきましょうか。ほとんどを売却してしまいましたし、スピンアウト予定ですが。
最初の合成ゴム(ネオプレン)
最初の合成繊維(ナイロン)
フッ素樹脂(テフロン)
パラ系アラミド繊維(ケブラー)
超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルム(カプトン)
ゴム弾性をもつ良加工性材料(ハイトレル)
セロファン(後に3Mがセロファンテープに)
その他、ソロナ、ナフィオン、ライクラ、ノーメックス等。
あとは直近の残念な決算でも。
DD 1-3月期 Q1決算
純利益: 1株当たり1.13ドル
前年同期: 1.54ドル
市場予想: 1.31ドル
年金費用等除く営業利益: 1.34ドル
売上高: 91億7000万ドル
前年同期比: 9.4%減
市場予想: 94億1000万ドル
農業部門: 10%減の39億4000万ドル
高機能化学品部門: 14%減の13億6000万ドル
など全部門減収です。
高機能化学品部門はスピンオフが計画されています。
アクティビストが仕掛けたデュポンの委任状争奪戦の結末は興味深いことになりましたね。
結果をいえばCEOの根回しがうまくいったということでしょう。
正直デュポンの歴史を考えるとこの会社にアクティビストとして仕掛けるというのは胆力がすごいとしか…w
アグリビジネスに舵をきったのにそれがパッとしないために利益警告とCEOが引責辞任。
まあこれはデュポンだけではなくアグリ系の他社も厳しい状況ですけどね。タイミングは悪かったね。
ダウ・ケミカルと合併とのうわさが浮上(WSJ)したね。
大型買収・大型合併の話が増えてきたりと、自社株買いバブルも続いたままだしどん詰まり感がある米国株式市場だね。どうなることやら。