米国の女性の66%が毎日髪を洗っていない。
英国の女性の60%がシャワーを毎日浴びない。
さらに3人に1人の女性が全く洗わず3日間も過ごす。
フランス人が週に2日しかシャンプーをしない。
世界的に毎日シャンプーをする人は少ない。
Source: Euromonitor
シャワーは比較的浴びるとはいえ、シャンプーは2日に1回といったところなのだ。
フランス人は週に2日しかシャンプーをしない
Source: ELLE.fr
日本でも有名なフランスのファッション雑誌ELLEの記事に「次のシャンプーまでにできちゃう20のヘアスタイル」のような特集(上のキャプチャ)があることからも、髪を週に1-2回しか洗わないのはフランスでは非常識な習慣でないことがわかる。
なぜフランス人がこれほどまでに髪を洗わないのか。
その最大の理由はフランスの水道水はかなりの硬水という点だ。
東京の水道水の硬度は60mg/リットル、つまり軟水で、パリは280mg/リットル、つまり硬水とされる120mgのしきい値を超えるかなりの硬水だ。
水道水にカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が多いと洗剤や石鹸がよく泡立たず、洗い流したあともミネラル分が髪に残り、パサつきの原因になる。
また、湿度の高い日本と違いフランスの気候はかなり乾燥しているため、髪を洗わなくても日本ほど不快にならないという点もある。
ということでフランスからは硬水/乾燥という2つの要因が髪を頻繁に洗うことを遠ざけている文化となっているようだ。
イギリスの女性の60%がシャワーを毎日浴びない理由
Source: Yorkshire Tea
ロンドンの水道水の硬度は220mg/リットルとかなりの硬水。
北部と南部(硬水)で硬度が違い、東部(乾燥)と西部では気候が違うので、硬度も高く東部よりのロンドンはフランス人が髪をほとんど洗わない条件に近そうだ。
地域差があるのでフランスほどではないがイギリス人が髪を頻繁に洗わない理由はやはり硬水の厄介さにありそうだ。
66%の女性が毎日シャンプーしないアメリカはセレブの影響が強そう。
Source: USGS.gov
アメリカの水道水の硬度は人口密集地に限ってはどうも軟水のエリアが多い。
ニューヨークは30mg/リットルで「サントリー南アルプスの天然水」と同じ軟水。
サンフランシスコも55mg、ロサンゼルス90mg、ワシントン110mgと比較的人口が集中している地域は軟水のエリアが少なくない。
参考までに以下の人口の偏りのマップを参考にしてほしい。(色つきのエリアだけで米国人口の半分)
Source: Business Insider/US Census Bureau
比較的軟水エリアにも人口の多いアメリカ全体としては日本とさほど変わらない頻度で髪を洗っているようだが、しかし女性に関してはイギリス人女性と変わらず6割の女性が毎日髪を洗わないというデータがある。
Source: Church & Dwight/MRI
アメリカの西部は特に乾燥しているため、シャンプーを3日に1回という人も少なくない。
ただ、シャンプーはしていないけどドライシャンプーはしている、という人や、米女優ニコール・リッチーのように「髪を洗うのは週1よ。シャワーを浴びる時に髪をぬらすけどシャンプーで洗うわけじゃない」と、お湯をさっと通すことで余分な油分を多少流す効果はあるはずで”微弱に洗っている”とも言えるような人もいるのでシャンプーしているか/いないかのアンケートでは見えてこない実態もある。
それでもセレブが「シャンプーは毎日しない」という発言がメディアやSNSで拡散されているのでセレブに影響を受けた人は多いかもしれない。
ミランダ・カー「シャンプーは2日に1回」
キム・カーダシアン「5日に一度シャンプーするのみ」
ジェシカ・シンプソン「シャンプーを使うのは月に1-2回であとはノー・プー」
ノー・プーとはシャンプーを使わない湯シャン(お湯だけで髪を洗う)のようなもので、ハリウッドセレブで流行っていた時期もあったようだ。
タレントのマリエも「3日に1回しか髪を洗わないし、アメリカ(留学時)ではそれが普通」と発言している。
毎日シャンプーしなきゃいけないと思いこんでいただけ?
アメリカは食品のオーガニック(有機)ブームや自然回帰のトレンドが続いている。
そういった流れに沿うように、ノー・プーやシャンプーほとんどしない宣言がわざわざセレブ等から出てくる背景には、そもそも”毎日シャンプー”という概念はユニリーバやP&Gのような洗剤メーカーのCMによる刷り込み効果も大きく、そういったものに対する反発もあるのかもしれない。
日本の有名な例で、タモリも「シャンプーどころかボディーソープも使わず湯船につかるだけ」というスタイルを長年とっている。
理由は、洗剤で皮膚常在菌(善玉菌)まではがしてしまうのは良くないというもの。
皮膚表面にはばい菌や乾燥などの外的刺激から守ってくれる常在菌がいて、酸性の膜を作って保護しているのだが、洗剤で洗うと常在菌のほとんどが死滅してしまうという。
強い洗浄力のシャンプーで洗う
↓
頭皮の皮脂を過剰にとってしまうと、頭皮はそれに反応して過剰に油を出してしまう(ホメオスタシス)
もちろん皮脂の出やすい体質の人や個人差はあるが、画一的に全員が毎日シャンプーをする必要はなかったという原点回帰が起きているのかもしれない。
少なくとも、強力なシャンプーで人体由来の天然のオイルである皮脂・常在菌を根こそぎ奪い取った後に馬油でも植物油でも別の油を塗りたくるというのはコスト・負荷に見合うのか興味深いが、それでもリフレッシュ・ニーズは根強いのだろう。
水道水は高額だ。さらに一部地域では水質にも問題がある。
Source: Water pricing for public supply
水道料金の高い国(首都) ランキング – OECD調べ
- デンマーク(コペンハーゲン) 7.63 USドル
- オーストリア(ウィーン) 5.20 USドル
- ベルギー(ブリュッセル) 4.95 USドル
- スイス(チューリッヒ) 4.65 USドル
- フィンランド(ヘルシンキ) 4.63 USドル
- オランダ(アムステルダム) 4.53 USドル
- ノルウェー(オスロ) 4.32 USドル
- アメリカ(ワシントン) 4.18 USドル
- フランス(パリ) 4.16 USドル
- イギリス(ロンドン) 3.98 USドル
- カナダ(ウィニペグ) 3.76 USドル
- ハンガリー(ブダペスト) 3.21 USドル
- ポーランド(ヴロツワフ) 2.77 USドル
- イスラエル(エルサレム) 2.76 USドル
- ポルトガル(リスボン) 2.57 USドル
- スウェーデン(ストックホルム) 2.52 USドル
- 日本(東京) 2.18 USドル
- スペイン(マドリード) 2.17 USドル
- イタリア(ローマ) 1.78 USドル
- メキシコ(グアダラハラ) 0.87 USドル
- 韓国(ソウル) 0.53 USドル
日本とは水道水の価格が2倍以上違う国が多く、感覚にギャップがありそうだ。
またカリフォルニアのように水危機・水資源問題を抱えているエリアは少なくなく、日本のように水源が豊富な国とは違った価値観があるのだ。
世界的に、また社会要請的に節水製品の需要が伸びている。
Source: Euromonitor
湯船にしっかり浸かる習慣をもっている国は少ない。ほとんどがシャワーだ。
また、アメリカの水質の問題もある。
約600万人の米国人が連邦当局が示した許容値よりも高い濃度の鉛に汚染された水を飲んでいる。米国の全50州で許容値よりも高い鉛濃度が検出された。
(USA today 2016年03月17日)
オバマ大統領がミシガン州に非常事態を宣言。経費節約に端を発する水源の切り替えで、現在供給されている水道水が鉛に汚染されていることが明らかに。
(AFP 2016年01月17日)
美容家「髪によくないので髪を洗うのはほどほどにしなさい」
アメリカのテレビのイメチェン番組に出演している人気美容師のテッド・ギブソンとキム・キンブルは「毎日シャンプーしてはだめ。どうしてもというならドライシャンプーを使うように」と推奨している。
数多くの日本代表をミス・ユニバース世界大会入賞に導いたイネス・リグロン「2-3日髪を洗わないと、シャワーとブローでわざわざ髪を痛めることも減らせるし、艷髪になるよ。ドライシャンプーで軽くマッサージすればOK」とこちらもドライシャンプーを推奨している。
アメリカの朝食はシリアルやスナックバーなど簡易&スピーディーなものが好まれる。合理的なのだ。
そもそも女性にとって髪を水に濡らすことはリスクである(摩擦によって痛みやすくなる)。
日本人の髪質は堅くて太い人が多いが、欧米の人は細くやわらかい髪質が多く、痛みやすい。
それでよく言われるのが「髪と同じケラチン蛋白のウールのセーターを毎日洗濯することがないように、あなたの髪も同じように扱いなさい」という戒めだ。
結局のところ、合理化、水道料金の値上がり、水質の問題、水の硬度、気候、セレブや美容家・ヘアスタイリストの後押し、髪を濡らす(摩擦)ことが髪にとってリスク、ドライシャンプー製品の多様化と認知、様々な条件が追い風となりドライシャンプーへの移行は案外想像以上に進むかもしれない。
シャンプーする(水のダメージ)ということは、ドライヤー(熱のダメージ)もかけなければならず、無駄も多い。
どうやらドライシャンプーが伸びている
アメリカの18歳以上の女性の13%がドライシャンプーを使っている。
「水いらず」で済む点、忙しい現代人にピッタリな点、またいくらノー・プーとはいえリフレッシュできる香りが女性のハートをつかみ売上が伸びている。シャンプーは避けたいものの、リフレッシュ・ニーズはあり、その妥協点なのだろうか?
たとえば、アメリカとイギリスでNo.1ドライシャンプーのBATISTE(バティストだかバティステだか)は、仕組みはデンプンベースで、デンプン質が余分な皮脂を吸収する。
ベタベタしていた髪がふわふわになっていく様がわかる。
時間のない夜・朝はもちろん、スプレータイプの良いところはカバンに入れて持ち歩くことも可能で、外で油っぽくなった髪をアフター5でふわっとしたスタイルに戻せることもメリットか。
また、水道水によるヘアカラーの退色をおさえることもできるのは人によっては魅力か。
世界的にはユニリーバのDove(ダヴ)ドライシャンプーが売れており、シャンプー会社にとっても、ドライシャンプーのトレンド変化にはキャッチアップしておきたいところだ。そのあたりの俊敏な機動力がユニリーバの強さの秘訣だろう。P&Gはドライシャンプーでは出遅れている。
ユニリーバには他にTRESemmé(トレセメ)ドライシャンプーなどのブランドも展開しており、節水製品によって水問題・温室効果ガス問題を解決する企業としての社会的責任を果たそうと主張している。
また、米英でNo.1ドライシャンプーのBATISTEはChurch & Dwightが買収している。
この2社がどうドライシャンプー業界を牽引していくのか注目だ。