世界最大のコンピュータネットワーク機器ベンダーであるシスコシステムズ(Cisco Systems, Inc.)は、スイッチ機器、ルータ、ワイヤレス機器、Web会議等コラボレーション、映像配信ネットワーク、データセンター、セキュリティ事業、クラウド、モバイルインターネット、IP NGN(次世代ネットワーク)など顧客の企業システムのインフラ周りをネットワーク技術を基軸に網羅的に提供する。
業績推移グラフ
M&Aはシスコの成長戦略の核心であり(買収でテクノロジーを手に入れる=人材獲得である)、その戦略を支えるガイドラインはヒューレット・パッカードにならい「市場をセグメント化」し、ゼネラル・エレクトリックの方針のように「各セグメントでNo.1かNo.2になる」というものである。各セグメントにおいて未参入であったり劣勢である場合に自社開発ではなく買収を判断する。買収の多いシスコではあるが、全製品の大半は自社開発であり、その担当者に買収によって獲得した人材が多いことからも、M&Aの成果が主に人材であることを示している。IT業界の優秀な技術者を囲い込むリクルーティング戦略には成功し続けている。
買収先企業の社員の残存率は高く、最初からCiscoに就職した人との差がほとんどないことから、M&Aにありがちな失敗である買収したら買収先の社員が離散していったという失敗がないよう人材ケアが手厚いことがデータで示されている。(被買収企業の従業員の定着率のほうが生え抜き社員より良いという場合も)
シスコの歴史 (社名の由来はサンフランシスコから)
1984年:
スタンフォード大学のレン・ボサックとサンディ・ラーナーがガレージで創業
1986年:
最初のルーター発売
1987年:
売上高150万ドル(大学、軍、政府機関を中心顧客にし、数種類のルーターを販売するルータ専業メーカーとして成長)
1988年:
大企業相手の市場に乗り出すが苦戦し資金欠乏でセコイア・キャピタルが株式の過半数を取得する(これによりセコイア・キャピタルのドナルド・バレンタインが会長に就き、元グリッド・システムズCOOのジョン・モーグリッジが経営のプロの新CEOとして雇われる)
1989年:
売上高2800万ドル(CEOが代わり新体制の下で業績が伸びる)
1990年:
NASDAQ上場、新CEOとの対立により創業者のボサックは追放されラーナーも退社
1991年:
売上高7000万ドル、後にCEOに指名されるジョン・チェンバースが米国国内担当の上級副社長として入社(元IBM)
1993年:
ジョン・モーグリッジがCEOの引退を表明し、後任にジョン・チェンバースを新CEOに指名(1995年から正式にCEOに) ジョン・チェンバースは特定のテクノロジー(例えばルータ)を信仰するのをやめて「選択するのは顧客」として顧客に必要とされるソリューション提案を可能にするため主要な技術にはすべて対応するサプライヤーとして市場をセグメント化し各セグメントでNo.1かNo.2のビッグプレーヤーとなることを目指し、弱いセグメントを強化するために積極的なM&A戦略を採用する。その戦略に基づきシスコ史上初の買収として、競合として伸びつつあった当時売上高が1000万ドルほどのスイッチングハブメーカーのクレシェンド・コミュニケーションズを8900万ドルで買収。Crescendo買収以来スイッチ機器市場ではGrand Junction、Kalpana、LightStream、Granite、Greenfield Networks、などTopspin CommunicationsやNuova Systemsといった高機能スイッチベンダーを次々に買収しセグメントNo.1に。
2009年:
6月8日にダウ平均株価指数に採用される。
シスコ・システムズ株価チャート
スイッチング装置とはネットワーク内でデータ交換を行うための設備のこと。かつてルーター市場でシスコの脅威となったジュニパーのようにスイッチング市場においてもアリスタが追い上げてきている。
近年の主なシスコ・システムズの買収
2006年:
約69億ドルで映像配信ネットワークのScientific-Atlanta(1959年上場)を買収
2007年:
約32億ドルで全世界220万人のユーザを抱えるWeb会議サービスのWebEx Communicationsを買収
2009年:
約30億ドルで全世界のHDビデオ会議市場等のグローバルリーダーであるTANDBERG社を買収
2012年:
約50億ドルで動画配信サービス向けソフトウエアのNDS Groupを買収
2012年:
約27億ドルでセキュリティ分野の強化のためSourcefire(2007年NASDAQ上場)を買収
2012年:
約12億ドルでクラウドネットワーキングのパイオニアMeraki(MIT出身者により2006年創業)を買収
その他、シスコが買収してきた百数十社に及ぶ企業一覧
Ciscoの競合企業
アリスタ・ネットワークス(ANET)
―世界最速スイッチをホワイトボックスで実現
―CEOもお抱え天才技術者も元シスコ経営幹部
ジュニパーネットワークス(JNPR)
―Juniper Networks
―通信キャリア向けルーター
VMウェア(VMW)
―VMware
―企業向けソフトウエア開発
シトリックス・システムズ(CTXS)
―Citrix Systems
キュミュラス・ネットワークス
―Cumulus Networks
―ネットワーク機器用のLinux OSを開発
ビッグ・スイッチ・ネットワークス
―Big Switch Networks
―ソフトウエア・ディファインド・ネットワーキング(SDNベンダー)
みんなの投資分析とコメント
Ciscoは解雇もダイナミックですね。
2001年: ITバブル崩壊の影響で当時4万4000人いた正社員のうち8000人規模のリストラ
2011年: 約6500人のリストラ(従業員全体の9%)
2012年: 約1300人のリストラ(全体の2%)
2013年: 約4500人のリストラ(全体の5%)
シスコ Q2 決算 11-1月期
Q3のEPSは0.51~0.53ドルとのガイダンス。
また、配当が10.4%引き上げられたので現時点の配当利回りは3%を超えています。
2014年売上高のうちスイッチ機器が39%占め、ルータは21%を占めるなどまだまだ依存度が高いものの、方向性としてはこれらへの依存度を低くするCEO方針。
Cisco Live!によると、ルータやスイッチなどの単一の製品ではなく、それらによって顧客の業務プロセスにどこまで踏み込めるか、また顧客の業務の価値を高められるアーキテクチャとして提供することに焦点をあてていますね。
たしかにフルカバーできるのがシスコのいいところではあるんですが…
ジュニパーネットワークスの猛攻はある程度防いでいますが、対アリスタ・ネットワークスのNexus 9000スイッチの売れ行きはどうなんでしょうか?アリスタにわりとスイッチ事業のシェア奪われてきていますよね。
新興企業らに「ソフトウェアで定義されたネットワーク化」でネットワークそのものの性質を変えられた場合、シスコの事業はスイッチング・ソフトウェア搭載の汎用コンピューターに置き換えられるリスクはないでしょうか?技術者ではないのでちゃんと理解できているわけではないのですが…
OpenDaylightプロジェクトの覇権はシスコ主導っぽいので今のところ安心ですが、足元で各セグメントでイノベーションのジレンマが起きているようで…
でも、すぐにガタつくわけもない強固な財務構造だし、主力のスイッチやルータの売上は順調なので、適度に買収していってくれればいいかな。Linksys買収みたいに市場を限定して既存事業と食い合わないようにする買収の仕方の限界が来ないことを株主としては願います。
GoogleやAppleもそうですがCiscoも手元資金が巨額ですよね。
2011年から配当出し始めましたし自社株買いも積極的ですが、まあイノベーションのジレンマがあるとしてもまだまだ見切りをつけるステージではないと考えますが。
オープン・コンピュート・プロジェクト(OCP)サミットで、フェイスブックが開発した革新的なネットワークスイッチ「ウェッジ」がアクトン社から販売されるのですが、そのベンダーがキュミュラス・ネットワークスとビッグ・スイッチ・ネットワークスというシスコ競合なんですよね。
スイッチ市場で圧倒的シェアを誇るシスコですが、安泰ではないですね。
現時点でシスコの最大の売上高を稼ぎだすスイッチング事業におけるアリスタが最大の脅威ではないでしょうか。
かつて懸念される競合だった対ジュニパー戦略は彼らがターゲットとした小さい市場である通信会社向けの市場助成で圧力をかけることができたというのがありましたが、対アリスタは彼らは企業向けデータセンター市場に特化し、すでに魅力的な顧客をおさえているのでその手段が使いづらいです。
たしかにアリスタは競合としてシスコの顧客をガンガン奪っていますね。
ですがシスコもだまってないですよ。
「アリスタがシスコの特許と著作権を侵害している」として提訴しています。
そういえばシスコ元幹部が創業した会社でしたね。
この訴訟の成り行きを見守りたいです。
CSCO売上高のうちスイッチ30%、ルータ15%と突出してますね。
そしてそのスイッチ事業にアリスタという脅威ですか。
それでも世界シェアではスイッチ事業64%、ルータ45%とまだまだ圧倒的な市場支配力。
GEのNo.1 No.2戦略にならった戦略が機能しています。