ざっくりいえば、顧客との接点。
企業戦略において、意識しないと気づかないうちにタッチポイント争奪戦で劣勢になっているケースが目立つ。
顧客との接点は非常に重要で、マーケティングにおいてもインバウンドマーケティングなど潜在的な顧客との接点を構築し「顧客との接点を維持し続ける」手法が流行ったりしていた。
サブスクリプションは顧客との契約(関係)そのものであり、顧客との接点を維持し続けながら、需要を満たしていける(クロスセル・アップセル)効率の良いビジネスモデルだ。
本稿では、主にサブスクリプションの観点からのタッチポイント争奪戦、PBの脅威に対するサブスクリプションの事例を扱う。
サブスクリプションとは何か?など、拡大するサブスクリプション・エコノミーついては以下で記事にしている。
顧客接点という重要なレイヤーをおさえることができるサブスクリプション
まずは、イメージしやすい小さな具体例で…
スナックミーというギルトフリー菓子のサブスクリプションサービスが面白い。
すでに売られている菓子を可愛くリパックするだけのファブレスで、PBといえば安売りのイメージだが逆におしゃれに梱包し付加価値+少量多種+サブスク+成分カスタム。
顧客接点のレイヤーをおさえエコシステム形成。 pic.twitter.com/cSBuorrfya
— 気になる企業調べる🐘 (@kininaruzou) February 16, 2018
スナックミーはPBというか別々の商品を統一感ある包装に換装し、付加価値をつけたアセットライト(ファブレス=自社工場を持たない)なサブスクリプションモデルというニッチで面白いバトルフィールドを開拓している。
また、キリンビールがはじめた月額制ビール「キリンホームタップ」もブランドロイヤルティの高い顧客との継続的な関係強化を実現している。
共通するのは「顧客接点という重要なレイヤーを自社がマネージする」という点。
商品を小売店に陳列しただけで終わるではなく直接顧客と接点を継続的に持つことでPB(プライベートブランド・プライベートラベル)の圧力を軽減し、ブランドのマインドシェアを継続的に高める。
ビールはPB耐性がかなりある方なのでアレだが、構造的に食品会社は小売企業のPBに侵食されている。PBは安定して工場を稼働できるメリットはあるが下請け構造的で、ブランドのマインドシェアが薄れていくボディーブローは痛い。
小売PB(プライベートブランド)との攻防
特にAmazonはデータドリブンで顧客の需要主導型でPBを生み出し続けている。
AmazonはPrestoというプライベートブランドの洗剤シリーズを出しているが、売れ行きはどうなんだろうか。
これはともかく、Amazonは大量の消費者購買動向のビッグデータを直接もってるから人気Amazonブランドを多数育ててメーカーを下請け化していくかもしれない。 pic.twitter.com/mUSGi44ipx
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年11月4日
もちろん全てのカテゴリがPBに侵食されているわけではないが、案外「ブランドの歴史」は浅い。
小売がブランド(商品の品質の保証をしてくれるであろう信頼という意味で)となってきた場合には、下請け的な構造になってしまいマージンは落ちるところもあるだろう。(もちろんPB/下請けが儲からないわけではなく設備稼働率の安定化策…以下略)
PBことプライベートブランド/ラベルにどのカテゴリがシェアを奪われているか(ニールセン/PLMA調査)
ソフトドリンクがPB耐性あるのは得体の知れない謎の混合ドリンクは飲まないということか。
一方ボトルウォーターはPBでOKと。一方、PBの中の人としてPB自体も境界線を超え進化 pic.twitter.com/iVyHeH8nDO— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) October 1, 2017
また、音声ショッピングが拡大した場合(実際のところ音声+画面になるとは思われるが)、選択肢として提示されるのは仕組み的な制約で1つか2つになるだろうことが想定されている。
スマートアシスタントでAmazon上の商品を音声注文しようとしたときに、音声だけだとどうしても選択肢が限られるので商品を2つほどレコメンドしてくるわけだが、その内容をみるとAmazonのPB帝国がさらに拡大しそうな感じだった。( via @WSJ ) pic.twitter.com/AKB8qyBcQy
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2018年3月2日
ここでP&GのCEOの発言を思い出していただきたい。
P&Gデビッド・テイラーCEOがこんなことを言っていた。
「実店舗でP&Gは棚を広く制圧し存在感が高いように、ECサイトでも強いブランドは最初の1-2ページの間でしっかり目にはいるポジションを作っている(から商品数が実店舗より多いネットでも問題ない)」
P&Gは売上の8割を占めているパワーブランド(コアブランド)に選択と集中を行うために非中核ブランドを売却・整理した。 P&Gの...
これは顧客がリストページを見てくれるから成り立つ話であって、選択肢が1つまで絞られる世界は想定していない。
米英の音声ショッピングが2022年には400億ドル以上に拡大すると予想。
音声という制約から選択肢に提示される最初の商品(Amazonチョイス)に選ばれるか選ばれないかで天地の差に。カテゴリNo.1になれない商品は厳しい時代になりそう。顧客接点なしではPBで下請けに。
Source: https://t.co/5sKfI58ViQ pic.twitter.com/3TeJ1ftlLk
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2018年3月7日
音声検索時代に検索エンジンや消費者から求められていることは、たった1つの最高の回答。
Yext, Inc.【NYSE:YEXT】 Yext(イェクスト)は検索エンジンや外部サイトで企業の正確なオンラインデータを最新の状態に...
時代のトレンドとしては最適な選択肢を1つに絞る力が求められており、最高のプライベートブランドは選択肢を消す効果がある。
これは地味にとてつもなくヤバイ地殻変動だ。
Amazonがブランドになれば、Amazonに対するブランド・ロイヤルティの高い顧客はAmazonが提示してくるAmazonのプライベートラベルならまぁ大丈夫だろう(星4.3以上だし…)となって、エッジのきいた商品以外はコモディティ化されかねない。
食品企業の多くが消費者の味覚の変化に対応できなかったのはなぜか?供給主導型から需要主導型に世界がシフトしており、Amazonを超えるレベルのデータ主導型で闘う覚悟が必要だ。
ドイツの格安スーパーAldiもこんな感じだった気がする。「選択肢過剰」社会ではアリだね。
"アイテム数を1600程度に絞り安価に。例えばアマゾンの場合、ポップコーン1つとっても数千種類あると思いますが、我々は2種類しか扱わない代わりに60%安くします。"https://t.co/5zBY7Winti
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) February 26, 2018
Boxedが急速に伸びているように選択肢過剰社会では選択肢をあえて消していく(安いという前提で)のは小売店側からも効率がいい(局所的バイイングパワーの発揮)。
同様に選択肢を削って安さを求め続けたドイツ発の格安スーパーALDIやLidlのPB比率は95%で、PB耐性のあるホームケアやビューティーケア以外では顧客満足度がナショナルブランドに対して著しく劣っている感じはしない。
ドイツ発の超格安スーパー「Aldi」はプライベートブランド比率が95%というのが特徴で、格安PBの品質に対する顧客満足度が卵や牛乳では以下のように高い。
PB耐性が低いカテゴリは価格圧力に晒される。逆にホームケアやビューティーケアではPB耐性が"比較的"ある。
Source: https://t.co/O1nhi8ElNi pic.twitter.com/lm6W6Uv648
— 気になる企業調べる🐘 (@kininaruzou) March 13, 2018
もちろんP&Gは逆風に少し先手をうってPB耐性のあるホームケアやビューティーケアなどの中核ブランド(パワーブランド)以外を整理し続けたが、オールドタイプで中途半端な”ブランド”には厳しい時代だ。
P&GのカテゴリNo.1製品であるひげ剃りのジレットに対し、ひげ剃りの替刃を定期的に郵送するサブスクリプションモデルのダラー・シェーブ・クラブはユニリーバに買収されており、ユニリーバはPB耐性の無いマーガリンなどの事業を売却し、PB耐性の高い化粧品などの事業を買収してターンアラウンドしている。
ダラーシェーブクラブも、小売店を経由しない直接の顧客接点の構築だ。
顧客維持率比較
競争過多のミールキット(献立付き食材宅配)の定期購入サービスでIPO以来株価暴落していたブルーエプロンとHello fresh、ユニリーバが買収したひげ剃り替え刃サブスクのダラーシェーブクラブ、Netflix
データを駆使したNetflixの優秀さが際立っている。 pic.twitter.com/CvZH3kanlY
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) January 11, 2018
サブスクモデルにおいて重要なのは顧客維持率で、顧客獲得コストに対して退会率が高すぎると、キャッシュフローがザルで持続可能性に欠ける。
上記ブルーエプロンは顧客維持率が低すぎてキャッシュバーンがひどい。これは競争が過熱しすぎていることもあるが、結局サブスクリプションのみはビジネスとして維持できず、小売店の売り場にもミールキットをおいてもらう戦略をとっている状態だ。
逆に顧客維持率率が高ければ、LTV(顧客生涯価値)が高まり、顧客獲得コストを上回り、継続的なキャッシュフローをもたらしてくれる。
サブスクリプションモデルは実際のところ成功させるのは非常に難しい。だが、顧客との接点を継続的に維持でき、顧客維持率次第だが売上の予測可能性を高めキャッシュフロー回転効率も上げやすく、トライする価値はある。
ダラーシェーブクラブのようなSaaS企業の強みについては以下で解説している。