ShopifyはSaaS型ECサイト構築プラットフォームで最大シェアで成長著しいクラウドベースのサービス。
この記事ではShopifyと同業のSaaS型ECサイト構築サービスであるBigcommerce、SHOPLINE、volusion、3dcart、およびオープンソースソフトウェアのMagento、WordPress拡張プラグインWoocommerceなどを比較し、全体的なトレンドを把握する目的で書かれたものだ。
総合的に比較してみて結論はスケールも考えて王道はShopify、低コスト量産はWordPress直接傘下のプラグインWoocommerceといった感じだった。大企業はMagentoの方がAdobeが買収したしマーケティングから垂直統合的に色々できるようになるかもしれない。
ECサイトを運営するにあたってSaaSの利点は、企業がオンプレミス(自社運用)のソフトウェアを所有し運用するよりもコスト、時間、複雑さを削減してオンラインストアを構築、管理、スケールすることを可能とするもの。
Shopifyの競合
Source: Gartner 2017 Magic Quadrant for Digital Commerce
このガートナーの調査では比較的広い範囲での比較となっており、あまり実用的とは言えなかったので他のデータも含めて比較していく。
Google Trendによる検索ボリュームによる人気度を見てもShopifyの伸びが圧巻。Magentoの鈍化はSaaSシフトの勢いを裏付けているのだろうか。
MagentoはShopfyより歴史がありカスタマイズ性で素晴らしいサービスだったがシンプルなSaaSのShopifyの使い勝手の良さは強く、需要が伸びていることが決算データだけでなく検索ボリュームからも分かる。
技術的知識が不要なShopifyとオープンソースソフトウェアで柔軟だが技術的知識が必要なMagentoで比較するのもどうかとは思うが、時代の流れはShopifyに傾いているようだ。
Shopifyの競合として最も近いのがBigcommerceだが、一気に突き放されていることが分かる。
顧客当たり総売上高もShopifyは他社を圧倒しており、優れた実績と拡張性が評価され大口顧客も次々とShopifyについていることが示されている。
だがBigcommerceは2015年に経営者が代わり、立て直しをはかっている。
アジアに特化したSHOPLINE、鈍化しているvolusion、立て直し効果が見えてきたBigcommerceといったところか。
それぞれのサービスの詳細は後述する。
Shopifyとその他の競合サービスのプラン価格比較
この画像には無いがスターター向けにネットショップに必要な機能が搭載されたShopify Liteは月額9ドルで利用できる。
また、大企業や取引量の多いストアに対して企業向けのソリューションとして「Shopify Plus」が提供されている。
Source: Shopify
Source: Bigcommerce
Source: SHOPLINE
Source: 3dcart
Source: volusion
国内のECサイト構築サービスは海外対応が弱いものが多いので比較からは除外した。
結論からいえば皆Shopify使えばいいのに。ちょっとしたECの量産ならWoocommerceでもいい。
1位のShopifyに対し後続勢は価格(取引手数料無料など)でアピール。
しかし例えばAmazonで販売するより自社サイトで販売した方が取引手数料が0.5%あったところで圧倒的に利益は大きいのだから、そこでケチるよりもそのECサイトが成功できるための機能・使いやすさ・サポート・将来性も重要だろう。そもそもShopifyを決済プロバイダーとして選べば取引手数料はShopifyも0になる。
まず大口顧客なら海外対応カバー範囲と出品数制限もなくスケールに実績のあるShopifyかBigcommerceの2択になるだろう。
Shopifyがここまで伸びた理由は小さいショップでも技術的知識が必要なく機能が豊富にも関わらずシンプルに使いやすいインターフェースと洗練されたデザインであり、安物買いの銭失いになるよりはShopifyを採用するのが無難ではないだろうか。
世界の全ECサイトの42%はWooCommerceで構築されている(2016年は39%)。
2位はShopifyの7%(2016年は6%)
3位はMagentoの4%(2016年は5%)WoocommerceはWordPressのプラグインで「量産サイト」が作られやすいので実体は上位1万サイトを見るのがいいかもしれない。
Source: https://t.co/FPEroNNq4W pic.twitter.com/QfE23MfwuB
— 気になる企業調べる🐘 (@kininaruzou) April 23, 2018
世界のECサイト上位1万サイトで最も使われているECサイト構築・運営サービス
1位 Shopify(2016年は9%)
2位 Woocomerce(2016年は10%)
3位 Magento(2016年は12%…勢い落ちた)Source: https://t.co/FPEroNvOGm pic.twitter.com/auLuGT4bF9
— 気になる企業調べる🐘 (@kininaruzou) April 23, 2018
Shopify
Shopifyのメリットはシンプルで使いやすく簡単に総合力(サードパーティAppマーケットプレイスも含む)で最高の機能を利用できること。
世界的にもっとも使われているSaaS型ECサイト構築・運用プラットフォームであり、機能の追加やサードパーティとの統合も安心感がもてる。
なにより業績が著しく成長しており、将来的にも持続可能性がありそうなビジネスモデルなので長期的にECサイトとしてパートナーを選定する際もそこはポイントだろう。
<Shopifyは安定的に業績が伸びているEC構築・運営プラットフォーム>
Shopifyの大きな強みはシンプルで使いやすいことだが、サポートの充実も最も手厚い。常に24時間体制で電話・メール・チャットなどでサポート。
Shopifyは「Shopify Experts」と呼ばれる事前審査済みの専門家(デザイナー、開発者、店舗設計、マーケティング等)を800人近く抱えており、Shopify Expertsと提携しゼロからストアをカスタマイズすることもできるので、本格的にECサイトを運用するにあたって近くにShopifyの専門家がいることは大きな利点だろう。
また、ShopifyはAppマーケットプレイスに2000近くのビジネスを自動化・効率化させるアプリが揃っており、他社のマーケットプレイスには多くて数百しかない。
SaaS全体の弱点として単一のプラットフォームがゆえにカスタマイズ性に欠ける点だが、それをアプリマーケットプレイスで補う他社とのエコシステム形成が鉄板のプラットフォーム戦略だ。
Shopify自体にあまりにも機能を実装していくとECサイト管理者にとっても使いこなせないツールでゴチャゴチャしたUIになり使い勝手が悪くなるリスクがある。
そのため競合のBigcommerceがShopifyにビルトインされていない機能があると批判しているのはある一面で見れば正しいが、その代わりShopifyに対しBigcommerceは使いやすいUIとは言い難い。
もちろんShopifyにはトランザクション・フィー(取引手数料)があるという一見すると利用者からみてウィークポイントがあるが、決済システムとしてShopify Paymentsを導入した場合、Shopifyの取引手数料が0%となるので決済手数料+取引手数料でみれば実質他社と変わらない。
決済プロバイダーとしてShopify Paymentsを用意していることで、PayPalなど他のオンライン決済サービスに登録するという手間を省くことができる。
オンラインとオフラインの在庫を共通で管理しやすくなるShopify POSも含めて考えれば、他社サービスよりShopifyにのっかっておけばECサイトとして困ることはほとんどないだろう。
そしてShopifyの特徴は全てのプランで出品数制限なし。
Shopifyの豊富なデザインテンプレートは初心者でも簡単に直感的に配色などを変えることができ、もちろん上級者にはソースコードも管理画面上で編集することができる。
SaaSのデメリットはカスタマイズ性に乏しいこととは書いたが、ShopifyはASP型とは思えないカスタマイズ性はある。
自動カテゴライズ機能や商品自動流しこみなどオートメーションが便利。今後は機械学習でさらに効率化を支援してくれそうだ。
さらに、Shopifyはプラットフォーマーとしての立場を活かして自社のプラットフォーム上の取引・売買等のデータを参照した融資サービスを行っている。
自社のプラットフォーム上の取引・売買等のデータを参照した融資サービス
<関連記事>
Amazonhttps://t.co/oGGdRR3lTj
Paypalhttps://t.co/67p8GHJEOt
Intuithttps://t.co/NmyU0lSgTC
Shopifyhttps://t.co/aG1PCPoU8G
Squarehttps://t.co/mfuImuzxVOSource: https://t.co/WgfkD8xsFj pic.twitter.com/6hFKn21lQI
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) February 16, 2018
ECサイトに関するあらゆる領域を垂直統合展開している規模がありながら勢いがあるShopifyを選択肢からはずす理由はないだろう。ビットコインすら対応している。
ちなみに多くのECサイト構築サービスは会計処理を楽にするIntuitのQuickbooksとの連携が鉄板となっている。
サードパーティの決済システムはPaypal、Stripe、Amazon Pay、Authorize.netあたりがメジャーどころだ。
AmazonじゃないサイトでAmazonのアカウントで決済できるAmazon Payがめちゃくちゃ伸びてた。
Amazon Pay導入済み店舗は新規会員登録の増加率56%増(未導入店舗は平均5%増)
よくわからんECサイトにクレカ情報残したくないしね。
ZOZOTOWNなども導入。https://t.co/7oRzS1rV2j pic.twitter.com/XMjtYGIvGT
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) April 23, 2018
Bigcommerce
Shopifyと共にBigcommerceは全てのプランで出品数制限なし。
2009年に創業で、SaaS型E-Commerceプラットフォームで2番目に急成長し規模が大きい。
2015年からCEOが代わり、現在Bigcommerce CEOのBrent Bellm氏は元マッキンゼーの小売および電子商取引の経営コンサルタントでeBayやPaypalで要職を経験した後、2010年から2015年6月までHomeAway(Airbnbに次ぐ民泊仲介プラットフォーム)のCEOだった。
2016年からはイマイチだったデザインテンプレートを刷新し、洗練されたデザインのShopifyとのギャップを埋めた。
「BigCommerceは必要なコア機能に対応しておりサードパーティのアプリケーションに依存する必要はありません」と多くの機能がビルトインされているが、SaaS時代の戦い方は「ベストな機能を提供している企業のアプリを組み合わせること」でもあり、Shopifyのアプリマーケットプレイスの充実や加速を考えるとShopifyにさらに魅力的なアプリのエコシステム形成が進んだ時点で差がついてしまう可能性もある。1社が全てにおいて最高のアプリを提供できる時代ではないのである。
非常に攻撃的なShopifyとBigcommerceのサービス詳細比較ページを構築しており
Source: Bigcommerce
IR 1000(Internet Retailer 1000)の採用で2017年ではShopifyに勝ったとしているが、Shopifyカンファレンスコールでは「ShopifyはIR 1000の優先順位が高いわけではない」としている。実際全体としての規模・成長スピードはShopifyは勝っており、部分的な特定領域で営業をかけていくのは2番手ならではの戦術だろう。
かなり機能面でShopifyを煽っているが、ユーザーインターフェースはShopifyが優れており、Bigcommerceは優先順位の低い機能がごちゃごちゃしたUIとなっており使いやすさはShopifyが勝る。
ユーザーは使いこなせなければ、使わないのだ。
Magento
25万店舗が利用するオンライン販売のためのシェアの高い電子商取引プラットフォーム。
オープンソースソフトウェアなのでカスタマイズしたい企業に選ばれてきた。
運用・保守は自社で行う必要があるため、エンジニアや不具合対応コストがかさむ。
インストール・保守が必要なソフトウェアはある部分では時代遅れになっており、Magento自体も小規模企業向けとは言えないので、スタートアップ店舗は無難にShopifyかBigcommerceあるいは場合によってはWoocommerceを選ぶのがいいだろう。
実はMagentoもSaaS版「Magento Go」を提供していたのだが2015年2月にサービス終了している。Magentoの良さはオープンソースベースのベンダーロックインからの開放であり、SaaSでは制限が多く、Magentoが手がけるには訴求力が弱かった。また、MagentoのSaaSは複雑すぎた(逆にShopifyはシンプルでわかりやすいUIで人気だ。)。
MagentoはSaaSの次はPaaSと主張しているが、SaaSの展開がうまくいっていたらそのようなことは言わなかっただろう。
Magentoの強みである自由なカスタマイズ性にフォーカスし、さらに大企業向けに特化して「Magento Enterprise Cloud Edition」を推進している。
クラウド・サブスクリプションモデルにうまく転換したAdobeにMagentoが買収されたことで将来性はある程度保証されたともいえる。
SHOPLINE
取引手数料0で月額サブスクリプション価格もShopifyより安価なSHOPLINEだが、アジアに特化しているのでグローバルなリーチを目指すならShopifyが適切だろう。
繁体字と英語サポートで中国でシェアを伸ばしアジア中心に10万店舗を抱える(ただしShopifyと違い著名ブランドは少ない)。
Volution
こちらも取引手数料が無料でShopifyより月額課金も安く30000店舗のアクティブマーチャントを抱える。
創業者のKevin Sproles氏は1999年に16歳でVolution(当初はWeb製作会社だった)を創業している。
勢いはかつてほどではなくなった。創業者は一時期家族との時間を大切にするためにCEOを降りていたが現在は復帰している。
Wix
急速に伸びている世界的ウェブサイト作成サービスで、上位プランでは簡単にネットショップ開業ができる。
あくまでウェブサイトベースで始まったサービスなので機能面ではShopifyなどの専門プラットフォームに劣るが少しずつキャッチアップしてきている。
Woocommerce
Woocommerceは著名なオープンソースのブログソフトウェアWordPress(アメリカ部もWordPressで運営している)にEC機能を追加できるプラグイン。
そもそもWordPressが中・上級者向けなので技術的知識ゼロでやっていけるShopifyなどに比べるとまた違うが、いろいろな意味で使い勝手は良さそうなプラグインだ。
WordPressを運営する2005年に創設されたウェブサイト構築会社Automatticは、2015年にWoocommerceなどプラグインを含むWooThemesを買収。
つまりWoocommerceはWordPress純正のプラグインということになるので安心感はあるだろう。
ただしWordPressもそうだがエラーが出る時の対応は自己責任だ。
Wixは厳密にはオンラインショップ構築専業サービスではないので比較が難しいが一応参考程度にGoogle Trendをのせておこう。2011年にリリースされたWoocommerceの勢いがすごかったが、Shopifyは強い。
まとめ
結論は業績も堅調で将来性がありシンプルで使いやすいShopifyが王道の選択肢となるだろう。
WordPressを手がけるAutomatic社も面白い企業なのでWoocommerceはポテンシャルがありそうだ。
米国のECの成長は堅調で、それでもまだ小売売上高のおよそ10%を占める程度。
Amazonはもちろん、ハンドメイド最大手のEtsyや、https://t.co/SCipHJPWD3
インスタの画像から買えるようにするなど複数の購買導線設計を提供するShopifyも爆発的に成長している。https://t.co/aG1PCPoU8G pic.twitter.com/INjC7iTiOj— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) March 9, 2018
ECはまだまだ成長しており、米国の小売売上高の10%を占め、通常ECでは売らない性質の製品(ガソリン等)を除けば十数%といったところだろうか。
Amazonの売上高は米国、英国、日本、ドイツなどが大半を占めており、世界のECを全て支配できているわけではない。
InstagramやPinterestなどのSNSの普及によってマイクロブランドの時代がきており、それらを支援する立場のShopifyなどのECサイト構築運営管理サービスの需要は底堅いだろう。
と、ざっくりとしたアウトラインだけ記載してきたため、まだ情報不足だが、Shopify投資家だけでなくECサイトを運用している担当者の方にも有用な記事になるよう適時追記していきたい。
日本に住んでるから海外のサービスは関係ないなんていうことはなく、個人でも海外に商品を簡単に売ることができるようになった今の時代は「越境EC」のハードルが低くなっておりマーケットは日本だけではなく世界。
Shopifyなどで簡単にクオリティ高く構築できる越境オンラインショップは、多言語対応・多通貨対応や提携配送サービス・顧客サポートなど国内のECサイト構築サービスに比べて圧倒的に有利な機能の豊富さがメリット。
日本のネットショップ開設サービスのサイトテンプレートより洗練されたデザインがShopifyなどには多いので無料期間で色々比較してみると良いだろう。