米製薬大手メルク(Merck & Co., Inc.)は米国ダウ平均採用のグローバルヘルスケア企業(医薬品や動物薬事業)。
米メルクは、1668年に設立されたドイツのメルク(以下独メルク)の米国拠点の子会社として1891年に設立されたが、WWⅡにおいてドイツに対し宣戦布告した米国に接収されて以来、別の企業体として存在している。
米メルク株価チャート
独メルクとの混同を避けるため、米メルクは北米外においてはMSD (Merck Sharp & Dohme)と表記し、独メルク(Merck KGaA)は北米においてはEMD (Emmanuel Merck Darmstadt)と表記し活動している。
そのため日本ではMSDとしてビジネスを行っているが、メルクマニュアルという医学書・医学百科家庭版が日本でもよく知られており、化学者にとってはメルクインデックスが事典として普及している。
エクセレント・カンパニーやビジョナリー・カンパニー1などの著名な経営書でメルクは二冊とも登場する称賛された企業である。(ただし、ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階では「ジョージ・メルク二世の経営のような(利益は後からついてくる)基本理念の追求でではなく、基本理念を忘れ過度の規模の拡大を追及したので衰退した」とこき下ろされている)
メルクの業績推移グラフ
米国外売上高の方が多い米メルクはドル高や医薬品の特許切れ、そして日焼け止め「コパトーン」などを含むコンシューマーケア事業のバイエルへの巨額の売却などで売上高が減速するなど逆風の中、免疫を使ってがん細胞を攻撃する免疫治療薬「抗PD-1抗体」であるがん免疫療法薬キートルーダ(KEYTRUDA:一般名ペンブロリズマブ)の適応拡大(第一段階はメラノーマ治療薬として承認し対象拡大を模索、ライバル薬はオプジーボ等)などに注力し、バイオ医薬品企業買収などのパイプラインの充実と共に自社株買いなどで株主還元を行っている。
その他のヘルスケア企業
ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)
―Johnson & Johnson
ファイザー(PFE)
―Pfizer Inc.
ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMY)
―Bristol-Myers Squibb Co
イーライリリー(LLY)
―Eli Lilly and Co
アストラゼネカ(AZN)
―AstraZeneca plc
サノフィ(SNY)
―Sanofi SA
グラクソ・スミスクライン(GSK)
―GlaxoSmithKline plc
ギリアド・サイエンシズ(GILD)
―Gilead Sciences, Inc.
アッヴィ(ABBV)
―AbbVie Inc
アムジェン(AMGN)
―Amgen, Inc.
ノバルティス(NVS)
―Novartis AG
みんなの投資分析とコメント
2型糖尿病治療薬ジャヌビアと小児用ワクチンのプロクアドは伸びてますが、高脂血症治療薬ゼチーア、バイトリンや特に抗炎症薬レミケードの減速が響いてますね。
自社株買いも悪くないですが、買収による今後のパイプライン拡充に期待です。
キートルーダは乳がんの腫瘍に作用するかどうかの臨床試験を行っており、売上に貢献するポテンシャルがアナリストからも指摘されています。
米メルク 2015年4-6月期 Q2(第2四半期)決算
純利益: 1株当たり0.24ドル
前年同期: 0.68ドル
訴訟や買収等除くと: 0.86ドル
前年同期: 0.85ドル
市場予想: 0.81ドル
売上高: 97億6000万ドル
前年同期: 11%減
市場予想: 99億ドル
独バイエルにコンシューマーケア事業を売却したこと、またドル高の逆風による売上減が反映。
免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体は小野薬品(ブリストルが提携)が開発したオプジーボ(ニボルマブ)が有名ですね。免疫療法薬としてメラノーマ以外のその他のがんの治験でもポテンシャルを見せていることから対象が拡大すると期待され、売上高としても最も現時点で期待されているのはオプジーボです。次点でその半額ほどでメルクでしょうか?画期的治療薬であれば審査期間は短くなります。
米メルクのキートルーダだけでなく、抗PD-L1抗体については、ファイザー(独メルクと共同開発)、ロシュ、アストラゼネカも開発を進めています。
仕組みとしては、免疫系を抑制するPD-L1、あるいはそれに結合するPD-1(がん細胞はここに隠れる?)というタンパク質が免疫にブレーキをかける働きを持つのですが、新薬はそのブレーキを解除させて免疫反応を復活させるという仕組みのようです。免疫療法薬として各社がブロックバスターとなることを期待して開発している。
それと補足ですが、米メルクのキートルーダはブリストル(と小野薬品)から特許侵害したと提訴されています。高額な医薬品ですから莫大な利益を生み出すPD-1阻害剤に絡む特許群の主導権争いはすでにはじまっています。
メルク(MSD)は、2015年ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智博士、ウィリアム・C・キャンベル博士と共に讃えられるべき企業です。
毎年3億人ものアフリカなどの新興国で薬を買う余裕のない人びとだけがその薬を必要としているという感染症「オンコセルカ症」の治療薬「メクチザン」の研究支援・臨床と無償提供を決断した偉大な企業です。
エクセレント・カンパニーやビジョナリー・カンパニーに登場しているのもそういった志のある企業だからでしょう。これは1987年頃まで遡る話ですから今のメルクがどうこういうわけではないですが、ジョージ・W・メルク氏の理念を今もひきついでいるでしょうか?