結論から言えばAmazon Go(あとで説明)が成功する理由は
1. まずレジなし行列なしに需要があること
2. Amazonの弱点である食品のカバーであること
3. 適切な広さで忙しい人が店舗内を徘徊する必要がない
4. Amazonブランドの忠誠心に寄与すること(それはPBにも貢献する)
5. 競合ウォルマートなどのピックアップサービス拡充に対抗できること
6. 密度戦略において後に重要なフラグとなること
7. 最後に重要なのがAmazon Pay影響圏の拡大だ
Amazon Goとは
入店時にAmazon Goアプリで表示されたQRコードをSuicaのように入り口ゲートでかざして店内に入り、あとは好きな商品を持って帰るだけのスピーディーなショッピング体験ができる次世代コンビニのようなものだ。
どの商品をとって退店したかはAIとセンサービジョン等によってチェックされているので、レジ処理もなく、アプリ上の決済も店から出た後に自動決済され後でデジタルレシートが発行される。
レジ無しコンビニ「Amazon Go」オープン時の様子。
顔認識技術を使う中国無人コンビニとの方向性の違いが興味深い。https://t.co/qjLYHRpiAt pic.twitter.com/4cfJcf7ZbM
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) January 23, 2018
グラブアンドゴー(grab and go)とは
Amazon GoのGoは「Grab and Go」のただ入ってとって出て来るだけ、というショッピング体験の手軽さを表している。
このような顧客が必要なものを棚から取ったらマイバッグにいれてそのまま店を出られるようなストアは、ウォルマートの会員制のサムズクラブではスキャン&ゴー(Scan & Go)というサービスですでに取り組まれていた。
しかし、Amazon Goとの違いは結局退店時に店員によるチェックがされるということであり、真のGrab and Goではない。
レジ無しだけならよくある。そもそもAmazon Goの一番すごい点はノースキャンだ。
他の似たような例では、ホールフーズ(Whole foods)の最新コンセプト店である365には入り口から近い距離にグラブ&ゴー(Grab&Go)というスペースがあり、お弁当やサンドイッチなど惣菜や飲み物が陳列されており、専用のエクスプレスレジで現金ではなくApple Payやクレジットカードやデビットカードでの決済で行列を避けてすぐに買って食べたい需要をカバーしている。
これは、弁当やサンドイッチ・惣菜など調理済み食品の「とりあえずいますぐ買える」体験に需要があったからで、日本の近くて狭いコンビニが遠くて広いスーパーよりも割高な値段にも関わらず利用されていることからも理解できるだろう。
つまり、日々のニーズの中心は「食品」であり、それに特化したレジ無し決済コンビニはそもそもの需要があるのだ。
そして、その食品部門のカバーこそAmazonの弱点を補強するということを以下に説明したい。
Amazonの弱みは食品
Amazon Freshは自社トラックを使った生鮮食品の宅配サービスだがコスト面で全米拡大には苦戦している。
生鮮・冷凍食品の扱いにはコストがかかり、そのため競合の動きとしてはGoogle Expressが食料品以外にしぼって費用をおさえたことで全米の90%以上をカバーするほど展開した。
だが、Amazonは生鮮食品を諦めていない。
Amazon Goではアマゾン独自のミールキット(レシピと生鮮食品・調味料のセットでアメリカで大流行中)を販売していたり、様々なテストが用意されている。
そしてAmazonは自社ブランド(プライベートブランド PB)で食品も開発しているため(ハッピー・ベリーなど)、実際に顧客との接点である店舗を作ることはロイヤルティ獲得のために重要で、PBがナショナルブランドに匹敵するブランド力を持つことになれば、それはAmazonの利益率を引き上げることにもつながる。
AmazonのPBが将来受け入れられるならば、宅配サービスを垂直統合しても食品とはいえコスト負けしない可能性がある。Amazonのすべては顧客ファーストである。
ピックアップ専用スーパーの動き
Amazon Go以外ではドライブスルー・ピックアップ専用スーパーが計画されている。
これは利用者が注文した生鮮食品などを、Amazonが2時間程度で用意し、車から降りずに商品を受け取るサービスだ。
利用者がアプリで注文し、店舗が商品を事前に用意しておくピックアップサービスは全米で拡大しており、スーパー最大手のクローガーではクリックリストを500店舗に拡大、CVSも全店で導入(当然動きが急すぎてずさんな対応ですが)、ウォルマートもターゲットもピックアップサービスを拡大している。
このピックアップサービスの流行は、忙しい人や子連れの母親など、どうしても広すぎる店内をまわり、レジ待ちすることに支障がある人にとっては不可欠なサービスでもあり、Amazon対策でもある。
そして、Amazonにとってのこのようなピックアップ施設のメリットは、返品拠点にもなる可能性があるという点だ。
アメリカは返品大国であり、返品のしやすさは買い物利用客にとっては重要なのだ。
Amazonはまず自社向けに取り組む
AWS(Amazon Web Service)もそうだが、まずは自社が使いたいものを作っている。その後で外部に提供する流れで成功している。
マーケットプレイス(他社がAmazonサイト上で販売)も、そもそもがAmazon自体が販売するためのフルフィルメントセンターの合理化と有効活用だ。
このAmazon GoもAmazon社内でテストされていた。動画にあるように、洗練された導線設計からベゾスらしくいかに社内テストが厳密だったかが手に取るようにわかる。
Amazon Payの影響圏拡大
Amazonの強みは全米でプライム会員が5000万人を超えるほどの会員網であり、そしてそのAmazonアカウントの外部拡張性だ。
Amazonがマーケットプレイスで他社がAmazon内で販売できるようにしたことと逆に、
Amazonログイン&ペイメントのように他社サイトでAmazonの決済システムを使えるようにする仕組みがある。
そして今回のAmazon Goでは、Apple PayやAndroid Payなどの決済システムではなく、Amazon Goアプリで決済する導線設計がなされており、アップルやグーグルに決済の心臓部分をにぎられないこと、将来的なAmazon Payの布石でもある。
このように人工知能によって職が奪われる社会が着々と進みつつあり、レジの職が将来なくなるのはほぼ確定といっていいだろう。
また、キャッシュレス社会への道は間違いなく進んでいる。ちなみにAmazonがアメリカで手がける本屋も現金では本を買うことができない。
Amazon Goでは商品をとった行動をAIやセンサー等がカートにいれたと判断し仮想のショッピングカートに追加されるが、棚に戻した場合は購買キャンセル扱いとなる。
そのように一回手にとって棚に戻す行動ログ自体もAmazonの商品計画のデータ分析に役立てられる強み(購買の決定打に欠けたというデータ)にもなり他社には真似ができないビッグデータだ。
さらに、このAI・センサーによる監視の仕組みは完璧な万引き対策にもなる。スーパーにおける万引きの損失はかなりの痛手であり、通常のスーパーよりその分だけAmazonは利益率を上げることができる。
追記:
このAmazon Goに近いアイデアとしてはIBMの2006年の以下のCMに近い。こちらはRFIDによるものだ。
みんなの投資分析とコメント
各州の規制にもよるのかもしれないですが酒類などの販売はこの仕様だとできないでしょうから、必ずしも既存スーパーを駆逐するわけではないかもしれませんね。
記事の内容にもいちいち納得。それに対して株価が反応していないのが不思議。
“利益”の大半がAWSから来ていますから、不確実性の高いAmazon Goでは株価は反応しにくいということでしょう。
ホルダーとしては、Amazonのイノベーティブなゲームチェンジャー能力が損なわれていないことを評価したいです。
ベゾスCEOの愛読書はイノベーションのジレンマですが、まさにその通りの事業展開ですね。